「――というわけで協力してもらいたいんだ」

「いや、そういうことに関しては距離を作るって決めているから」

　恋に関しては一人でやるか他の子に頼んでもらうしかない。

　私はそこだけはしっかり守ってきたのだ、彼だけ例外なんてことにはしない。

　これは文句を言われないためでもあった、ただ自分を守っているだけだ。

「でも、一人じゃいつまで経っても変わらないんだよ……」

「ことは？　それにさりでもいいよね？」

「なんだよ……優しくない先輩だな」

　最初からわかっていたことだろう。

　このままここにいてもちくりと言葉で刺されるだけだから私の方から離れることにした。

　予鈴が鳴った後にも存在しておくことは不可能だからギリギリに教室に戻ればいい。

「あら、こっちに来るなんて珍しいじゃない」

「いまの子は？」

　まだなにか用があるのだとしたらどこかにいく。

　本当かよと言われてしまうかもしれないけど彼女と話すためにこっちまで歩いてきたわけではないからだ。

　ただまあ、こうして顔を合わせたのなら拒絶をする必要もないわけで、ごう君のことを頼もうと決める。

「同じ係の子なの、お仕事も終わったから気にしなくて大丈夫よ」

「そうなんだ。ねえさり、ごう君に協力してあげてくれないかな」

「それであなたは私になにをしてくれるの？」

　最近の彼女ならこうなることは予想できていたしこうなって当たり前だから驚いたりはしない。

「そっちにいく回数を増やす、でどう？　私だって頼むだけ頼むなんてしないよ」

「それなら二人きりね、小椋君は……あなたの教室にいるのね、いってくるわ」

　早い段階で自覚していまも尚、お付き合いをできているわけではないから一気に変わったりはしないだろうけど頑張ってもらうしかない。

「お姉ちゃん、ごう君を見なかった？」

「私の教室でいまさりといるよ」

　教室にいるよと言ったときよりはダメージも少ないはずだ。

「さりさんと？　うーん……」

「どうしたの？　早くいかないと休み時間が終わってしまうよ」

　なにか変えたいなら動かなければならない。

　上手くやれてもやれなくても勝手に前に進むようになっているけど前者とはわかりやすく差ができる。

「……お姉ちゃんだけじゃなくてごう君まで取ろうとするなんてさりさんはずるいよ」

「私が頼んだからなんだよ、だからそんなこと言わないであげて」

「なんでごう君といるように頼む必要があるの？」

「寂しがり屋だからかな」

「なるほど、確かにごう君は寂しがり屋だよね、だけどそれなら私に頼めばいいのに……お姉ちゃんの馬鹿」

　こ、これはもう私のことを馬鹿だと言いたいだけだ。

　廊下にいてもこちらがダメージを受けるばかりだから戻ることにした。

　そうしたら楽しそうにお喋りをしている妹とごう君、さりは一歩引いたところで見たりお喋りに加わったりと上手くやっている。

　あれは私が好きな距離感だ、ただ私よりもはっきりと上手くやっている彼女に嫉妬をした。

「ん－あきちゃんの本当のところがわからないわ」

　お昼休み、空き教室を使用させてもらってお弁当を食べているときに彼女が言う。

「私もわからないよ」

「あのままだと小椋君に協力するのも難しいわ、関わってしまったのなら悲しそうな顔をしてほしくないから」

「でも、恋なんて上手くいかないことの方が多いでしょ？」

「それでもよ」

　自分を守るために逃げている私がなにかを言ってもなにも説得力はない。

「だから悩んでいるの、自分のために動くのはどうなのかってね。だってあれだけじゃあなた的には協力したことにならないでしょう？　そうしたらお泊まりの件だってなくなってしまうわけだし……」

「え、十分だけど、ちゃんと守るよ」

「そ、そうなの？　あ、でも、気になるのよね……」

「それはわかるよ」

　もうすぐ夏休みになる。

　私達がどうこうよりも結局はそこで本人が頑張るしかない。

　他の子に頑張るよりいい点は土台がしっかりしているということだ、誘えばすぐに来てもらえる点も大きい。

「それでもこれ以上はやめておくわ――あっ、あなたが約束を守ってくれるとわかったからじゃないのよ！？」

「別にそれでいいよ、ごう君が頑張らないといけないことだから、でしょ？　協力してほしいと頼んでおいて言うのは矛盾しているけどさ」

「ふぅ、そ、そうよ」

　お泊まりの件もただの継続と言うよりは夏休みになることで当たり前みたいなことになる。

　いまみたいに中途半端なスタンスだと彼女を疲れさせてしまうからゼロか百ぐらいの極端さが必要な気がした。

　受け入れたからにはとことんやるぐらいでいい、無理ならきっぱりと断ればいい。

「さり、私頑張るよ」

「ええ、え、なにを？」

　全部言う必要はない。

　守れるかどうかもわからないうえに不安にさせてしまうかもしれないからだ。

　これからの私の行動したところを見て判断してもらうしかなかった。

　なにこの状況……。

　起きたけど目を開けられない、体重の預け方的にことがくっついてきているのはわかるけどここはさりのお家だ。

　なのに何故こんなに早い時間にいるのか。

　お酒を飲める歳でもないから酔っぱらっていた昨夜にやらかしてしまったとかでもないし……。

「いい加減、はなから下りなさいよ」

　おお、さりナイス。

「嫌だよ、こういうときでもないと私は一緒にいられないんだから」

　話し方的にだいぶ仲よくなったみたいだ。

　私的にはそのことが嬉しい、お友達同士で仲よくしてほしいからだ。

　お友達のお友達がいるからという理由で距離を作ってほしくはない、うん、実際にされたらただ私が寂しいからでしかないけど。

「はぁ……あきちゃんという手強いライバルがいなくなったと思ったら今度はことなのね、上げるべきではなかったわ」

「さりちゃんこそ独占なんかしちゃ駄目だよ」

「それでもとりあえずは下りてあげなさい、起きるに起きれないじゃない」

　どいてくれたところであれ～来ていたんだ～という風にしておいた。

　最近は昔の妹や母が相手のときよりも一緒に寝ているからバレバレだったみたい。

「ぶぅ、さりちゃんが可愛くないから二人でプールにいこ？」

「プール？　私、水着がないからここで待っておくよ」

　冷たい水に触れるよりも冷房が効いたこのお部屋でのんびりしている方が遥かにいい時間となる。

　もちろん、楽しもうとしている人を馬鹿にしたり押し付けたりはしないから安心してもらいたい。

　あと課題というやらなければいけないことがあるのもね、それに初日ぐらいしっかり休んだ方がいいからね。

「駄目よ、はなが朝ご飯を食べたら買いにいきましょう、お昼からでもプールで十分遊べるわよ」

「だからさりちゃんは連れていくつもりは――痛い痛い痛い……」

　今回ばかりは絶対に流されない。

　流すのはトイレなんかの汚れなんかでいいのだ。

「ま、冗談だけどさ、はなを誘わなければいけないのも本当のところなんだよ。何故ならごう君とあきちゃんとも約束をしているからです！　特にあきちゃんから『絶対に連れてきてくださいね！』と頼まれちゃっているからなあ、もし連れていけなかったら私は豚の丸焼き状態にされちゃうだろうなあ」

「そうやって脅しても無駄だよ」

「仕方がない、さりちゃんに協力してもらうしかないか」

「さりが相手でも私は――なんで二人で抱きしめてくるの？」

　そんなにしたいなら普段からしてくればいいのにと言いたくなる。

　一応は我慢をしているということなら、いや、それでもこうして抑えきれなくなってしまうなら逆効果だろう。

　別に私はしてくるなとか言ったことはないのだからなにを怖がっているのかという話だ。

　彼女がきっかけで始まったこの話だけど感謝しているのだ。

　一人でつぶれそうになっていたところを助けてくれた、あとは安定して一緒にいてくれるという点がやはり私からしたら大きくて……なにかしてあげたいという気持ちが強くなる。

　美味しいご飯を作ってくれたりもしている。

　つまりそろそろ本格的に動かないとやばい状態になってしまっているのだ。

　飽きてしまう前に返せる分は返していかなければならない。

　なら……抵抗するのは違うか。

「さりでもことでもいいけど私の分は選んで、あっ、安い物でね」

「任せなさい」「任せてっ」

　恥ずかしい時間はすぐに終わった方がいいからご飯を食べたらすぐに出た。

　元々、いつもよりも寝すぎてしまっていたみたいだったからお店の開店時間的にも丁度よかったのだ。

「はなに似合う水着はどこですか～」

「これは？」

「んーはなは嫌がりそう」

「もっと教えてちょうだい、適当にはしたくないわ」

「任せて」

　いや、本人がここにいるわけだから本人に聞いてくれればいいのに。

　あと派手すぎなければ正直に言ってどれでもよかった、暗い色でも明るい色でも。

　何故なら誰も私のことなんて見ていないからだ、気にしたところで恥ずかしいことになるだけだ。

「あ、これ可愛い」

「ならそれだね、流石に本人が出したこれだという答えに文句は言えないよ、普通に可愛いしね」

「そうね」

　くぅ、中々お財布的にはダメージ大だった。

　この後はお祭りなんかもあるのにこんなに使っていいのだろうかとまた矛盾めいた考え事をする。

　まあ、それもすぐにやめて二人の水着選びを手伝おうとしたのにそちらは許可してくれなかった。

　た、確かにセンスはないかもしれないけど選んだ物をせめて見てからにしてほしいところだと思う。

「さ、いこー」

「そうね」

「はーい……」

　ここからそう遠くないところにプールの施設がある。

　だから三十分とかからなかった、水着に着替えるのも時間を必要としなかった。

　それでも買ったばかりというのもあって着た後に色々と見る必要はある。

「大丈夫だよね？」

「うん、タグの切り忘れとかもないから安心して。それに似合っているよ、可愛い」

「はは、ありがとう」

　ささっと妹及びごう君ペアとも合流して目立たないようにしなければならない。

「どこにいるんだろう？　もしかしてついにあきちゃん相手に本気になったごう君が――痛い……」

「しねえよそんなこと、それよりあきが弱っているから来てくれ」

　すぐに向かったけど確かに朝よりは弱っている気がした。

　物理的にはしていなくても攻め攻めな姿勢に負けた結果にも見えてしまうところだ。

「お姉ちゃん……いまごう君と二人きりになるのは危険だよ、なにをされるのかわからないから警戒して」

「ちょ、変なこと言うなよ、あきが弱っているのは人が多いからだろ」

「その上で手を握ってきたりするからでしょ、……しかも転びそうになってこっちを抱きしめてきたし……」

「ち、違うっ、転びそうになったのはあきでそれを助けただけなんだ！」

「そうなんだ、あきを助けてくれてありがとう」

　はいいけど……いまごう君は直視しづらいな。

　なんで部活もしていないのにこんなにムキムキなのか、この状態で事故でも触れたのなら妹が慌ててしまってもおかしくはない。

　特別な意味で好きではない私だってこうなのだ、少しでも影響を受けていたとしたら……考えたくもない。

「やっぱりはな先輩だけだよ味方は！　あきも姉ちゃんも酷いよなあ」

「だったらお姉ちゃんと一緒にいればいいんじゃない？」

「おいおい、すぐにそうなるのがあきの悪いところだぞ」

　喧嘩をしてほしくないから止めて黙ったままのさりの手を握る。

　新しく買った水着がやっぱりよくなかったとかだろうか？　それとも、今更ながらに恥ずかしくなってきてしまったのだろうか。

「さり？」

「トイレにいきたいの、あなたも付いてきてくれる？」

「うん。じゃあそういうことだから」

「「いってらっしゃーい」」

　トイレにいけなかったから黙って耐えていたのか、と思えていたのはトイレに着くまでの時間だけだった。

　個室に私まで連れ込んでなにをするというのか、いやなんかもう……目がやばい。

「……少しあなたには大きい水着ね」

「うん、着たときに思ったよ」

「でも、やばいの」

　やばいと言われても困ると返す前に思いきり抱き締められて息ができなくなった。

　すぐにやばくなったのはこちらだ、背中を叩いて止めるしかない。

「っはぁ……はぁ……いきなり酷いよ」

「ご、ごめんなさい」

　つまり……こんな小さく棒きれみたいなのに欲情してしまったということか。

　いや男の子ならどこかにそんな奇跡みたいな存在がいてくれそうだけど同性なのにそんなことがあるのだろうか。

「ふぅ、ま、誰か一人にでもよく思ってもらえたのなら買った甲斐があるよ――あ、ちょ、または駄目だよっ？」

「そんなことを言うのはやめなさい」

「どうすれば戻れる？」

「あなたから抱きしめてくれたら……かしらね」

「ならこれでいい？　あ、もう駄目だからね、戻ろう」

　健全に遊ぶ場所なのに私達はなにをしているのか。

　最初だけなら巻き込まれただけだけど抱きしめたりなんかしたら同類でしかない。

　当然、こんなことは戻ってからも言えなかった。

　まあ、言ってどうするというそれも強いけど。

「うーむ、ここならはな先輩が一番心配だから見ておいた方がいいのか……？」

「私は外で見ているから遊んできなよ――あ、駄目みたいだ」

　こちらの腕を掴んで逃がさねえという顔をしている。

　それでもいい点はあきの手も掴んだということだ、うんうん、わかりやすく差を作ってくれているのは妹的にも悪くはないだろう。

「当たり前だろ、ほらあきもいくぞ！」

「うぇぇ……もう疲れたぁ」

　同じくぐったりしていることも巻き込もうとしたのに何故かさりに止められて駄目になったので三人で出発することになった。

「といっても、人が沢山だから泳げたりしないけどな」

「歩いているとダイエットをしている気分になるよ」

「ああっ、俺的にはダイエットじゃなくて筋トレって感じだ」

「はは、ごう君はもう十分でしょ」

「駄目だ駄目だ、すぐに脂肪に変わるからな」

　ひえ、聞きたくないからここで違う話題にしておこう。

　ただ、妹が全然話さなくなってしまったから途中から申し訳ない気持ちになってしまったのだった。