第8話 運命の日、のその後は

先頭から二両目の一番前のドア。

いつも、そこに並ぶ事にしている。


私が通う名門女子中学校までは、電車を二本乗り継いで40分程かかる。

4月の朝は、やわらかくて、穏やかな風が気持ちいい。

うちの学校の制服は、紺のジャケットに赤いチェックのプリーツスカートで、制服が可愛いという理由で入学する子も多いと聞く。

そして、今日私は、初めてそのプリーツスカートを履いている。

入学以来、ずっとクローゼットの奥に息をひそめていたスカートは、真新しすぎて、新入生のようで少し照れくさい。


♪タラリンラリランラン ラリラリ~


どこかで聞いたことのあるのんきな音楽がホームに鳴り響く。


プシューッ 


電車がホームに到着する。けだるそうな会社員や学生がどっとホームにあふれ、私は人波の間から素早く車内に目を走らせる。


(いた!)


先頭から二両目の一番前のドアから入ると、その対面のドアに、彼は必ず立っている。そうして、右端の手すりにもたれかかっている彼は、私が彼を見つける前からこちらを見ていたようで、目の端が少し笑っている。私は、彼の隣にあたりまえのように立つ。


「おはよう。」


私が言うと、彼は大きな笑顔で言う。


「おはよ。」


彼の少し大きな口には、やっぱり笑顔が似合う。そのあと右手を首の後ろにあてた彼は、しばらく考えて、付け足すみたいに小さな声で私に言った。


「その恰好もかわいいね。」


彼は、そう言うと少し後悔したみたいに、窓の外に目をやった。耳の後ろまで真っ赤になっている。


(これから、会わなかった2年分の「かわいい」を言わせてやるんだから!)


私は、その様子をドキドキしながら観察する。

彼の名前は、刈谷 恵介。

私の初めての恋人である。

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初恋の返却は駅のホームで くるみ @mikkuru

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