第4話 再会
中学二年生の二学期の始業式。
私は、久しぶりの学校に遅刻したくなかったので、いつもと違う一本前の電車に乗った。電車は空いているかと期待したんだけど、どちらかというと混んでいて、
(うへ~)
と心の中で毒づいた。
たくさんの人をかき分けて何とか電車の中に押し入り、ドアのそばの銀の棒を掴んで、ほっと息をついたところで電車が動き出した。電車が大きく揺れたせいだろう、私の横に立っていた黒いランドセルを背負った小学生の男の子が、よろけてドアにおでこをぶつけた。
(大丈夫?)
そう声をかけようと思ったが、タッチの差で水色のポロシャツを着た男子学生が、その子に先に話しかけていた。
「今日の電車、揺れるね。ここつかまんな。」
その男子学生はそう言うと、自分のいた所に小学生を連れて行き、銀の棒につかまらせ、自分は近くのつり革につかまった。
(こういう風に、さっと人助けできるのって素敵だな)
私は何気なく、その男子学生の顔に目を向けた。
そこで、心臓が止まりかけた。
か、彼は、なんと刈谷恵介だったのだ。
私は、ひとまずくるりと彼に背を向けて、息もできるだけ止めて(必要ないんだけど)、彼が降りるのを待った。あまりに驚きすぎて、心臓がばくばくと拍動しているのがわかる。いくつもの疑問符が頭を駆け巡っていた。
(遠くに引っ越したんじゃなかったの?)
(そもそも、なんでこの電車に乗ってるの?)
(え、どうしよう。は、話しかける?私のこと覚えてるかな?)
車内は冷房が効いているはずなのに、この緊急事態に背中につーっと一筋の汗がつたうのを感じた時、電車は止まった。
プシューッ
私のすぐ近くのドアが開き、刈谷君はこちらをちらりとも見ずに、電車を降りて行った。よく見ると、彼と同じ水色のポロシャツを着た男子生徒が、大量に電車を降りていく。
刈谷恵介。また、刈谷君と会ってしまった。
これは、もしかすると、神様からのメッセージなのではないか。
そう、消しゴムを持ち主に返すようにっていう。
あの日からトンダーマンの消しゴムは、私の机の引き出しの中に、ずっと入ったままになっている。
あの消しゴムがあるせいで、刈谷君が転校してからも、私は何度も刈谷君の事を思い出してしまう。あこがれで、ちょっと憎たらしい刈谷君のことを。
そして、一緒に思い出してしまうんだ。
アイドルになれないって、かわいくないって言われて、すっごく傷ついた事を。
もう、決着つけて前に進みたい。
消しゴムを返して言ってやらなきゃ。
「勝手に持って帰ってごめんなさい。」
って。そして、
「かわいくないってい言われて傷ついたんだからね。」
って。
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