第7話 仮想世界〈バーチャルワールド〉
受付の女性を洗脳して座席に座ったアーダムは、席に置いてあったバッジを身に付けた。
その下には、この試験の説明書きだろうか、紙が何枚か置いてある。
(懐かしいな。)
アーダムはそう思った。
そういえば彼は、かつて幼い時にこの試験を受けた時があったのである。
と言っても、昔の試験は今とは違う。
昔は、決まった時期に定期的に試験が開かれ、筆記と実技に分かれていた。
その実技も現実世界で行われていたのだが、何せ今は魔法使い不足だ。
できるだけ多くの魔法使いを輩出する為、より頻繁に入学試験が開かれるようになり、試験内容もより簡素化されている。
たまに筆記を行うこともあるが、ほとんどは実技だけ、それも幻術が使える魔法使いによる
アーダムがまだ宮廷魔術師として活動していた頃、実質陰の権力者として権勢を振るっていた時代に提唱したものだが…。
(うまくやっているようだな。人材不足を補う為に
彼自身、まるで他人事のようにそれを観察していた。
そして、所々忘れている部分がある。
『ハイ!それでは受験生の皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます!!』
気付くと、今回の試験官(?)が目の前の舞台で拡声器を使ったかのような音量で話し始めていた。
(あの
どうやらアーダムはギリギリに入ったようで、少しの間紙の内容を読んでいるだけでもう開始時間になってしまった。
(まぁいい。試験中に探せばいいだろう。)
アーダムは期待していた。
あれ程の魔力をもし盗めたとしたら、自分は昔よりももっと大胆に振舞えるのではないかと。
『お手元にある紙に書いてある通り、今回は
(今回もだろう。)
『そしてですね、その行った先の世界で、どれだけモンスターを倒せるか!で、皆様の合否が決まりますので、できるだけ多くのモンスターを倒していただきたいと思ってます!!』
それから試験官は、ぐだぐだと試験内容の説明を続けた。
要は、
(くだらないな。)
アーダムからすれば児戯に等しい。
点在する魔物はそのレベルによって獲得ポイントが異なり、より強い魔物を倒せばより高い得点が手に入る、ということだが、誰にでも得手不得手はあるだろう。
これが得意だからと言って必ずしも魔法使いとしての才能があるという訳ではないが、いかんせん試験官の人材不足をカバーする為に簡易化された試験方法だ。
仕方がないのだろう。
そもそもこれを提唱したアーダムには、それを否定する資格がなかった。
『では、バッジは身に付けていただきましたね!』
どうやらこれで転移するようだ。
『それでは、試験スタート!!』
試験官の元気のいい挨拶と共に、受験生達のバッジが光り始める。
アーダムは、自分が誰のバッジを付けているのか分からなかった(というのも、単願だけして不参加する受験生も少なくないから)。
ぼんやりと自分のバッジが光る様子を眺めていたが、そこでふと思う。
(…そういえば、
気付くのが遅かった。
(不味いな…。)
焦っていないように見えているが、アーダムは焦っていた。
このままでは、魔力の無い状態のままアーダム・アヒム・アッヘンバッハとして君臨してしまう。
そうなれば恥だ。
アーダムはバッジを外そうとするが、服にくっついていてビクともしない。
そのバッジには“ハリス・レグルス”と書かれていて、そこで初めてアーダムはその人物のバッジを借りているのだと気付いた。
それが誰かは知らない。
(終わった…。)
アーダムが諦め、手からバッジを離した瞬間、全員がまるでテレポートをしたかのように会場の椅子の上から消えた。
―――………。
――……。
―…。
ここは
制作した
だから、アーダムは提唱した際、そこに魔物を配置するよう指示した。
それも強弱をつけて。
レベルの高い魔物を倒せば倒す程ポイントは積み重なり、一定のポイントに達した時点でゴールに辿り着けば無事合格となる。
簡単なルールだ。
これは実践向けの魔法使いを早く育成する為であって、勉学の出来は関係ない。
これは何を意味するのだろうか…?
―…。
――……。
―――………。
アーダムは目が覚めた。
そこは芝生の上だった。
(ここは…?)
一瞬、自分がどこにいるのか迷った。
だがしかし、若い脳だからだろうか?
瞬時に記憶を思い出し、自分がこれから何をしようとしているのかを思い出した。
そして、両手を見る。
(…よし。)
アーダムはカインのままだった。
諦めの悪いアーダムは、バッジから手を離した後、現実から
自身に変身魔法をかける為だ。
それが成功したのか、はたまた元からカインの姿で出現したのかは分からない。
だが、アーダムは自分の望み通りの姿でいることに成功したのである。
あと問題はと言えば…、
(このままだと魔力消費によっていつ体内の
ということである。
即ち、アーダムには時間がなかった。
(急いであの小僧を探さないとな。)
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