第2話 人嫌い、(でも)自分は例外

アーダムは目が覚めた。

そこはベッドの上だった。

(ここは…?)

自身の現状を認めたくなくて、アーダムの脳は一瞬困惑する。

アーダムには、ここがどこだかなんとなく分かっていた。

(そうか、逃げられなかったのか…。)

アーダムは失望する。

仰向けになりながら、腕で目を隠した。

そこで、彼は自分の右手がないことに改めて気付く。

腕を天井に向けて伸ばして、意味がないと分かっていながらも右手をグーパーする想像イメージをした。

(やはり無駄か。)

突然右手が生えてくる訳でもなく(当然だが)、ただ、不思議なことに、

視覚との錯覚にクラクラする。

その方がいいのかもしれない。

突然、扉が開く音がした。

「ふぅ…。」

女は溜息を吐いて部屋に入ってきて、アーダムが起きていることにも気付かず彼の元へ歩いてくる。

やや下を向いているようだ。

アーダムはその様子をじっと見つめる。

女は手に桶のような物を持っており、その中には水が入っているようだ。

女が歩く度に水が揺れる音がする。

それをどこか懐かしいと感じながら、アーダムは女に対して

(近付くな。)

と思っていた。

アーダムにとって、心を許せる存在はいない。

それが例え今の自分と親密な関係にある(アーダムは、自分が浜辺で会った男女の子ども(に見えているの)だろうと仮定していた)としても、彼にとっては関係なかった。

他人は全て敵か、赤の他人である。

それが、アーダムが常日頃から考えていることだ。

いや、無意識に感じていることだろうか?

女が顔を上げる。

アーダムと目が合った。

「……!!」

女は驚いたようで、口をパクパクさせている。

それもそうだろう。

なんせ、何日も目が覚めていなかった子どもが目覚めているのだから。

「あなた!あなた!!」

女は水桶を落とし、(部屋の)外に出て急いで男に知らせに行った。

(あーあ、やってしまったな…。)

他人事のようにアーダムはそう思う。

どうせ彼は掃除なんてしないけれども。

アーダムは落ちた桶から滴り落ちる水を眺めながら、(次はどこへ行こうか?)などと考える。

、脱走計画を考えているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る