追憶の世界

数日後、城に戻ったシャトルはオウシャは既に亡くなっていたと報告した。


そして彼女を知っている者からだと、重力浮遊車グラビティキーが病床の王妃の元に届く。

それは不法区域の実家の中でずっとルコットが探していたものだったが、事情を聞いて彼女はルゴーラ王妃に渡したのだ。



「オウシャ‥本当にすまぬ事をした」


朦朧としたルゴーラが譫言を言いながらそれを握りしめると、思い出の中に一人の娘の後ろ姿が浮かんだ。


「そなたはあの城の中でも普通に接してくれた。私はあの頃がずっと思い出に残っている。それなのに‥‥立場の壁に苦しめられ、二人を庇うことが出来なかった」


『私も‥‥あの頃がとても楽しかった』


目蓋のオウシャは笑顔でルゴーラに話しかけると、誘うように振り向く。


『じゃあまた‥‥一緒に街へ抜け出す?私の重力浮遊車グラビティ、もう古いから‥これが最後かもしれないけどね‥‥』


「‥‥‥」


ルゴーラはウリス王子が見守る中、枕の上で微笑んだ。


影の権力者だったセイルが事故により、それまで培ってきた地位を失った今‥‥王子は新しい士官と共に重力浮遊車グラビティの行き交う城下街に決意の目を向けるのだった。





⁑⁑⁑⁑⁑

惑星オールの大海原の空を浮遊していく重力浮遊車グラビティ。俺は窓から静かに移動する地上の景色を見下ろした。



その山中の村に小さなホワイトピンクの重力浮遊車グラビティが停まっている。

俺の乗っているのはW型に対し、あれはU字形だ。どちらも真ん中に操縦席があり、全体でバランスを取るのだ。

その先に、知っている人物を見つけた俺は急降下した。


険しい道をゆっくりと減速しながらガラス越しのふんわりとした雲が移動していく。




「おーい、ルコット」


草地に降り立ったW型からシャトルが現れると、そこに居るルコットに声をかけた。


「また街にイトさんを連れて行ったんだろ。無事だったか」


「大丈夫。無理な運転してないから」


そう言ってにっこり笑う。


「そっちも、おニューに乗ってきたけど迷わずに来れたみたいね」


「何とかな」


「それで、どうしてこの村に?ここの景色が好きになったとか」


「それもあるが‥‥」


シャトルは照れるようにW型に手をかける。


「新しいのをお披露目したついでにで一緒にどうかと思って。君にはコバンがあるから無理かな‥‥」


「うーん、そうね」


ルコットは考えるような仕草をしたあと、明るくシャトルを見つめる。


「たまにはいいね」


そう言ってW型に乗り込む二人は浮上するW型からウルミ村を見下ろした。


向こうではイトが田園の道をゆっくりと歩きながら、リモーが待つ整備工場へと向かっている。


シャトルとルコットはこんな景色がいつまでも続いて欲しいと思った。

ウルミ村のどこまでも広がる景色。遠い向こうでの世界を乗り越えながら進んでいく━━

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追憶の世界 嬌乃湾子 @mira_3300

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ