Hunting The Low

 パワーメタル。それはヘヴィメタルの中でもメロディック寄りで、日本人にも特に人気のあるジャンルである。代表的なところで言えばドイツの『ハロウィン』、フィンランドの『ストラトヴァリウス』『ソナタ・アークティカ』、意見が分かれるかもしれないが、リッチーブラックモアの率いる『レインボー』もその枠に入るとも言われている。


 そんなパワーメタル界でも、特に有名な曲と言えばなんだろうか?Youtubeの再生数や影響力から鑑みて、候補としては以下が挙げられるだろう。


 ・アクセプト『Fast as a shark』(1982)

 ・ハロウィン『I Want Out』(1988)

 ・ストラトヴァリウス『Hunting High and Low』(2000)

 ・ドラゴンフォース『Through The Fire And Flames』(2006)


 この中では特にドラゴンフォースの『Through The Fire And Flames』がYoutube musicで唯一の一億超え、かつ三億再生を超えるメタル界全体でみても屈指の大ヒット曲である。


 しかし、日本のメタラーを育んだという点ではハロウィンやストラトヴァリウスは間違いなく偉大だし、アクセプトの『Fast as a Shark』は、この曲がなければ今のパワーメタルが無かったのではないか、と感じさせるような曲である。


 要するに、やっぱり全て素晴らしいのである。


 僕は、そんなことを思いながらDAPをいじり、ストラトヴァリウスの名盤、『Infinite』を再生させた。ヘッドフォンの中に、『Hunting High And Low』のイントロが鳴り響く。やはりこの高揚感は何にも変えられないな。僕はそう思いながら机に頭を埋めようとした。するとそこでいきなり誰かが僕の頭をポンポンと叩いてきた。


 誰だ。またアリちゃんか?もしくは名古屋ちゃんかと思って顔をあげると、そこにはクラスメイトの沢口輝彦さわぐち てるひこがいた。高身長で整った顔立ちの、まあ俗に言うイケメンである。そのイケメンは僕を見下ろすなり口を開いた。


 「昼休みからメタルか」


 「それは、別にいいだろ」僕はそう言いながら、こいつはわかっている口だと勘づく。ジャケ写を見てこれはメタルだと気付く人は意外と少ないからだ(少数だが、メタルというジャンルを知らない人もいる)。


 「しかも聴いているのはHunting High And Low……。フィンランドの」


 「そりゃあフィンランドだろうよ」僕が言うと、沢口は顔色を変えた。


 「そりゃあフィンランド……?」


 「まさか沢口くん……。ノルウェーのHunting High And Lowが好きなの?」


 そう返すと沢口は少し柔らかい顔をした。


 「良かった。日立が洋楽に知識のある奴で。ようやくうちのクラスに話の通じるやつが見つかったぜ」すると沢口は僕の隣の席にドカッと座った。


 ノルウェーのHunting High And Low。即ち、アハの『Hunting High And Low』だ。アハとは、世界的に有名なポップミュージック『Take on me』を生み出したノルウェーを代表するバンドだ。そんなアハが生み出した、美しくも儚いバラードである。


 「確かに。あれは名曲だよね」僕がそう言うと沢口はたまげた、とでもいわんような顔をした。


 「おい!!話にならねえじゃないか。ポップとメタルでどっちが素晴らしいかバトルしようと思ってたのに」


 「いや、だってアハはいいバンドだと思うけれども……」僕がそう言うと、突然後ろから知ってる声が聴こえてきた。


 「日立くん。アハがいいバンドだというのは、確かにそうかも知れない。でもそれじゃあメタラーとしてメンツが立たないと思わない?」


 そう言いながらやってきたのは隣のクラスの名古屋ちゃんだった。


 「いや、別に……」


 「別に、じゃない!!こいつはストラトヴァリウスとアハを比べてどっちが優れた曲か天秤に掛けようとしてきたんだぞ!!このポップンミュージック!!」


 そう言うと名古屋ちゃんはポップン……、いや、沢口を睨みつける。すると沢口は笑顔を浮かべる。


 「ああ、そうさ!!自分の好きな曲について、他ジャンルファンと口論をする!!これってめっちゃ楽しいと思わないか?」


 そう言うと沢口は学ランの上着を脱ぐ。すると中からはバグルスのTシャツが出てきた。バグルスとは、『Video Killed the Radio Star』などを発表し、後にプログレ界の重鎮、イエスに吸収されたバンドだ。僕は合点がいった。


 「沢口くんはシンセサイザーが好きなんだ」そう言うと沢口はキョトンとしたあと、頭を縦に振る。


 「そうだとも。これはメタルにはない重要な要素だろ」


 得意気に言うポップン。僕は遂にカチンと来た。


 「メタルに、シンセが無い……?」僕はぐっと手を握りしめた。


 「ないだろ。というか、あっても薄味じゃん。ギターとドラムばっかりで」


 「名古屋ちゃん!!取り敢えずポップンを押さえといて!!今から爆音でアイアン・メイデンの『Somewhere In Time』流すから」


 「ラジャ!」そう言うと名古屋ちゃんは容赦なく椅子に座る沢口を羽交い締めする。


 「や、やめろ、日立!!」


 僕は自分のヘッドフォンを沢口へと近づけていく。バタバタ抵抗している。


 そんなさなか、丁度教室にアリちゃんが入って来た。


 「……一体なにをやってるんだ?アンスラックスの『Spreading the Disease』のジャケ絵の再現でもしてるのか?」


 すると沢口は叫んだ。


 「んだー!!またメタラーが来たよ!!」

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