第19話 プレイバック合コン

「おかしい。俺は騙されているのかもしれないぞ」


 そんな疑問がふと湧いてきた。

 はじめは気のせいだと忘れようとした。でも疑問は頭にこびりつき離れない。どんどんと不安がつもるばかりだ。いても立ってもいられなくなり、ギルド本部へとやってきた。


「どうされたのですか、愛染さま? 急にお越しになるなんて」


「おい、ギルマス。合コンの件ってどうなっているんだよ?」


「へっ?」


「言ってたよな。女性の99.9%は俺と合コンをしたがっているって。なのに、あれ以来なんの音沙汰もないじゃん。毎日、毎日、おじさんやおばさんへの愛想笑いとサインばかりだ。まさか騙しているとかはないよな?」


 言ってやった。ついに俺の本心をぶちまけた。

 誘ってきたのは向こうだし、これは男として譲れない部分だ。


「ここまで違うなら俺はおりるぜ!」


「待ってください。話はありましたが全て断っていましたよ?」


「な、な、なんて勿体ないことを。いったいどういうつもりだよ」


「だって愛染さま、不要不急なもの以外は断れって言ったじゃないですか。だから仕事を優先したのですよ」


「ばかばかばかー、合コンの方が大事でしょ。なんでそれが分からないのさー」


 オファーの多さに怖じけづき、人任せにしたのがいけなかった。

 あきれるのと後悔で吐き気がする。


「それほどご希望でしたら、ちょうど今夜一件ありますがどうしますか?」


「行くに決まってるでしょーー、ばか。でもありがとう!」


 今度は嬉しすぎて吐きそうになるがこらえる。

 酸っぱい匂いをさせて、合コンになんて行けやしない。前回の教訓があるし、身だしなみも整えておこう。




 そして約束の時間となり、深呼吸をして指定されたお店へと入った。

 すると一斉に視線を向けられ、控え目な話し声が聞こえてくる。


「ほ、本当に来たわ。嘘でしょ」

「えっ、私服なんだ。ど、どうしよう」

「心の準備がーー」


 良いのか悪いのか、よく分からない反応だ。

 もしかして服がまたダメなのかな。念入りに選んだ服なのに残念だ。


「あ、あの~コンパに来られたSSSランク様でよろしかったですか?」


 リーダーらしき女の子が声をかけてくる。少し心が折れかけているが、なんとか建て直して笑顔でこたえる。


「はい、はじめまして。今日はよろしくお願いします」


「「きゃーーーーーーーーーーーーーー!」」


 腹に響くほどの黄色い歓声に圧倒される。そんな俺とは対照的に、みんなの瞳が涙で潤んでいるよ。

 女性ばかりが10人程いて、男性の姿はない。変な構成で心がざわつく。


「男性陣はどうしたんですか? 俺が早く来すぎたのかな?」


「いえ、SSSさまが来ると聞いて、みんな諦めて帰りました~」


「な、なんで?」


「世界最高冒険者に張り合うには、少し格が足りない人達でしたからねぇ。逃げるのも仕方ないですよ~」

「それよりも~SSSさま、早くこちらへいらしてください」

「そうそう、この出会いに乾杯しましょ」


 強引に席につかされ、グラスに赤いワインを注がれる。


「それでは素敵なSSSランクさまとの夜にーー」


「「かんぱーーーーーーい!」」


 想定外のハーレム合コンが始まった。俺を囲むように女子が群がってくる。そして矢継ぎ早に自己紹介と質問をされ、目の回る忙しさだ。


「はじめまして~、ヒナです。親は不動産経営をしていて、ここのお店もパパの物なんですよ」


「そ、そうなんだ」


「それにわたし、SSSさまの事を何でも知ってます。身長体重や出身地に好物も。あっ、ピクルスがお嫌いでしたよね。安心してください、出さないよう言ってありますから」


「SSSさま、それは違いますよねぇ。お嫌いなのはキュウリの酢の物でしたよね。私ならそんな凡ミスで、不愉快な思いはさせませんよ」


「ちっ」


「はは、す、すごいね」


 終始こんな感じでコンパは進んでいく。食べ物なども自分でとる事もない。至れり尽くせり、まるで王様のような扱いだ。

 そのノリはエスカレートしていく。


「SSSさま、S級ダンジョンのお話を聞かせてくださいよ~」


「じゃあ、さわりだけ」


「「うんうん」」


 あれ、今の勢いで誰かに手を握られた?


「えっと、その、出てくるモンスターはデーモン系で」


「「うんうん」」


 こっちは体をすり寄せてきている?


「魔法防御力が高い相手でね」


「「うんうん」」


 背中に柔らかい物が当たっているーー。


「魔石の色はー」


「「うんうんうん」」


 頭の上にも乗ってきたーーーーーーー!


 圧力が凄いどころじゃあない。おれ、理想郷に埋もれています。


 でも彼女たちの眼差しは真剣そのものだ。俺の言葉を一つも聞き逃さないぞと食いついてくる。

 だから、途中でやめるなんて出来なくて、いっぱいお喋りをした。


「ちょっとトイレに行ってくるよ」


「「はーい、いってらっしゃいませー」」


 他に誰もいないトイレで深呼吸をする。

 気づけば3時間を過ぎているが、それでもみんなの熱はさめていない。

 忍者を馬鹿にされる事もなく、逆に大盛り上がりだ。


 でも待てよ。前もそんな幻想で失敗をした。周りの反応を察知できずに陥った、トラウマ級の経験だった。


 しかもそれを知ったのは、同じくトイレの中だったよな。そう考えていると、またもや皆の本音トークが聞こえてきたのだ。


「SSS級ってあんなに稼ぐものなのね。想像を超えてるわね」


「うん、ダンジョン鉱山だなんて想像つかないよ、なんだか別世界の人ね。……って、なんでアンタとこんな話をしなくちゃいけないのよ!」


「それはこっちのセリフ。いい、SSS級の恋人の席はひとつだけ。絶対に譲りませんからね」


「ふん、可哀想に夢を見ているのね。残念だけど世界初のSSS夫人に相応しいのは私よ。小金持ちのお嬢ちゃんは黙ってなさい」


「あらあら~、雑魚2匹で大変ねえ」


「「なんですってーーーー!」」


 めっちゃモテてます。


 時代が忍者に追いついたんだ。


 メディアでも特番を組まれているし、各地の忍者の里には国内のみならず、海外からも客が押し寄せている。さらには忍者道場なんてのも、町のあちらこちらにでき始めている。


 悪い本音トークではないし、もう少し聞いてみるか。


「やっぱSSSっていうのが、魅力なのよねえ」

「そうね。何だかんだ言って、SSSのブランド力は高いから、勇者や賢者がかすむもの」

「はあー、SSS夫人かあ。いい響きよねえ」


 少し引っかかるものがある。

 コンパが始まってから、ずっと名前で呼ばれていないよな。


「でもさー、裏を返せばそれだけよ。ダンジョン以外に興味がなさそうだし。まっ、操縦しやすいのは確かよね」

「だよねー。稼いでくるなら何んでも良いけどね。それにもし離婚しても、千年は遊んで暮らせるわよ」

「生きすぎーーーーー」


 全員、目的はお金かよ。

 いや、それも一つの魅力だから評価するのは悪くない。でもそれだけってのは萎える。おれ自身を見て欲しいよ。


 でも薄々は気づいていたんだよ。

 SSSランクになって、周りの反応が変わってきている。


 知らない親戚が増えたし、小中高校の同窓会だけでなく、他の学年からの誘いがきている。

 始めは嬉しかったが、話す内容はお金のことばかり。だんだんと嫌気がさしてきた。


 おれ自身は何も変わっていないのに、肩書きだけが独り歩きをし始めている。


 でも今のコンパでそれを出すのは違うよな。軽くビンタを頬にいれ、席へと戻る。少しでもおれ自身を見てもらえるよう努力しよう。


「SSSさま、おかえりなさいましー」


「あ、あのう俺には愛染虎徹って名前があるんだけどさ」


「はい、もちろん存じ上げておりますよ、SSSさま」


「そ、そう……そうだよね、あはは、は」


 でも残念なことに、その望みは叶わなかった。今回の合コンも惨敗だ。ちゃんとモテるって難しい。


 この前とは違うモヤモヤとした気持ちにいきどおる。これじゃあヤケでダンジョンに潜る気にもなれないな。


 そうだ、こういう時は心愛さんに話を聞いてもらおう。この気持ちを解決できるかもしれないぞ。



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