第18話 新素材を求めて

 ギルド本部の会議室。

 到着するとすでに、ギルマスと丸山さんが待っていた。


 急きょ呼び出されたのは、オリハルコン等の希少金属が、いまだに出土されていない件である。


 これはかなり深刻な問題で、俺や周りは焦りまくっている。

 ただ採掘自体は順調に進んでいて、A級以下のアイテムはあふれる程だ。


 ではその希少金属が、埋蔵されていないかと言うとそうではない。

 壁や床の中に見えていて、掘れば手の届く場所にあるんだ。


 だが悔しいのは、それを掘り起こす術がない事だ。

 オリハルコンが埋まっている地層は硬く、既存の道具では歯が立たない。ベテラン鉱夫もお手上げなのだ。


 しかし、諦めるのは勿体ない。ギルドは特別研究チームを立ち上げ、調査を重ねてついに答えを見つけたそうだ。今日はその報告を聞きに来ているのだ。


「愛染さま、お喜びください。データによると採掘は可能です」


「おおお、それはどんな方法で?」


「はい、地層を掘れない理由は、道具に使っている素材の強度が足らないからです。格下のミスリルでは、オリハルコンに敵わないって事です。だったら答えは簡単ですよ。より硬い素材を使えばいい。オリハルコンやアダマンタイトのつるはしで、砕いてやればいいのです」


「えっと、つまりオリハルコンのない現状では、対処の方法がないって事ですか?」


「まあ、端的に言えばそうなりますね」


 ギルマスめ、意気込んだ割には普通の答えだな。期待して損をしたぜ。


 オリハルコンが欲しいのに、手に入れる為にはまずオリハルコンが必要になる。なんだか禅問答のようだよ。


 とはいえ簡単には引き下がれない。

 確率は低いがドロップから手に入れる方法もあるし、既に持っている人から売ってもらう手もある。


 ただその場合だと、途方もない金額になるか、もしくは交渉自体できないかが予想される。それほど貴重な物であるし、海外だと国が管理しているなんて事もある。


 解決策があるようでじつはない。そんなジレンマに頭をかかえてしまう。


「愛染さま、そんなに落ち込まないで下さい」


呑気のんきに言ってさ。ギルマスらしくないよ」


「はい、対策があるからこそお呼びしたのですよ?」


「マジ?」


 意外な言葉に喜ぶが、ギルマスの含み笑いに悪寒が走る。良からぬ事を考えていそうだ。


「質量は10gと少ないですが、海外の企業が名乗りをあげてくれました。ただ見返りを求められまして、その件を愛染さまにお願いしたいのです」


 タブレットに、映し出された沢山の項目をなぞっていく。

 世界樹の樹液に、レッサードラゴンの目玉と牙、大王イカのイカ墨などと、どれも入手困難な品ばかりだ。それが100個以上もつらなっている。


「もしかしてだけど、これ全部って訳はないよね?」


「いえいえ、まさか。これらはホンの一部分。全体ではこれの5~6倍はありますよ」


 俺もギルドも足元を見られている。

 これら全てを揃えるのなら、A級のみならず何個かはS級にも行かなくてはならない。

 オリハルコンの為とはいえ、公平さに欠けるよ。


 それと既に依頼されている分と合わせたら、すごい仕事量になる。もし全部をこなすとしたら、24時間のフル稼働。寝る時間がなくなるよ。


 そんな心配をするが、依頼はギルドから回ってきたものだ。ちゃんとスケジュール調整をしてくれるだろう。


「ギルマス、今後の予定なんだけど……」


「変更はありませんよ」


「へっ?」


 最後まで言わせないつもりなのか被せてきたよ。ギルマスらしくなく圧力がある。


「平行してやれって言うのかよ、少しは俺の身にもなってくれよ」


「愛染さまこそ、何を言っておられるのですか? 今がとても大事な時期ですよ。各界へのつながりや、アイテムの入手、そして100日後には崩れるダンジョン。どれも待ってはくれないのです」


「でもさー、普通に無理だよー」


 訴えるも、ギルマスは静かに首を横にふる。まるで俺が駄々をこねているかのようだ。


「もしオリハルコンの武器を使うなら、愛染さまが世界初になるのですよ。それがどれ程の影響力があるのか、考えてください」


「影響力?」


「ええ、格好いい愛染さまが最先端の武器で活躍すれば、いやが上でも目立ちます。そうすれば、ダンジョンに興味のない女子たちでさえ、愛染さまに惚れますよ」


「えっ、じゃあ?」


「はい、合コン三昧の毎日になるでしょうな。そうなると、今よりも更に忙しくなります。依頼が増える程度のものじゃないですよ」


「な、なるほど。何百件増えた位で泣き言は言えないか。よし、おれやるよ。完ぺきにこなしてやるよ!」


「おおお、さすが愛染さまです。でも貴方だけに苦しい思いはさせません。全てが終わるまで私も休みませんからね」


「ギルマスーーーー」


「愛染さまーーーー」


 俺はギルマスと握手をかわし抱き合った。目標ができやる気もみなぎる。善は急げと、最初の一件目に取りかかることにした。

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