バッド大陸編

第2話 救いの無い町

「どうなってるの?」

「救いの無い町です」

「そう言う意味じゃなくて! 私の家が消えたのはどうして?」

名酒なさけさんの家が消えた訳じゃないです、異世界転移しました」

「この状況で、ありふれた異世界転移って逆に納得してしまう言い訳だね」


「言い訳じゃないのですが・・・名酒さん身体、何か気付きませんか? 転移特典の若返りに丈夫な身体!」

 エチケットブラシを取り出して、ふたの鏡で顔を見た。

「10代の張りとつやの肌?」

「姿だけでなく、身体も丈夫になっていますよ」

 言われてみると、腰痛を感じない。

「ありゃ! 胸がしぼんだ?」

 胸の発育前って、15歳位にされた? 胸はあのままで若返りさせてよ!


 ノルマとか代償がいっさい無くて、この町で救命技術を向上させ、世界を回ってなりたい仕事を見付ける事で良いそうだ。

 何もしなくても、罰とかいっさい無いとか、旨い話には落とし穴が必ずある。

「何かうま過ぎる話絶体裏があるでしょ?」

「この世界の活性化のため、人材を勧誘するのが僕達2級天使の仕事です、少しでも活気が表れたなら名酒なさけさんの成果として評価されます」


 今の生活詰んでる、生活保護なんて簡単に認定されない、何か罠があるとしても、腰痛の無い若いこの身体は魅力があるよ!

「救命技術向上させるって、この町に私が住む所有るの?」


「この家に住んで下さい、それからこれ銀貨90枚入っています」

「まだ・・・お試しでしょ?」

「日本でやる事あります?」


「やる事? 無い・・・かも」

「日本の、何か持って来たい物があります? 取り寄せます」

「家に有る物全て、この家に取り寄せるって出来る?」

「・・・はい取り寄せ終了、この家の方が広いので、配置は適当にして置きました」


 いま日本の自室は何も無い状態、これで私は生活苦から失踪、何処かで覚悟の自殺でもしてると思われるでしょう。


 私が大学生の時、200年続いた『名酒なさけ酒造』を、お人好しの父さんが騙し盗られ、大借金の心労で心不全で亡くなった。


 即遺産放棄の手続きし、学費が払えず中退した。


 2級ヘルパーの資格を取って、始めた訪問介護15年頑張ったけど腰を痛め出来なくなった。

 あの時点で私の人生が狂ってしまった・・・そうか! 居なくなっても誰にも何とも思われない、居なくなった事にさえ誰も気付かない、そう言う存在を選んで勧誘してるのか。

 私の半生って寂し過ぎる・・・異世界で新たな人生やり直しするのも悪く無い。


 石造りの庭付き一戸建て住宅、門を入り扉を開くと直ぐに応接間? になってる。


「土足で入るの?」

「不自然ですがシューズボックスはあちらです」

 見るとすみにちょこんと見慣れたシューズボックスが置かれてる。

 靴を脱いでスリッパをつっかけ室内を見渡した。


 ソファーに机が中央に配置されて、本棚が壁際に設置されてる、がらんとした殺風景な部屋だ。

 次の部屋はキッチン? 広い部屋の中央にちょこんと一人用のテーブルがあり、離れた奥に冷蔵庫に調理流し台にIHヒーターが配置されてる。

「電気は通じてる?」

「電気はこの世界に無いです、代わりに魔道具に変えて居ます」

 魔道具が何か分からんが、電気製品が今まで通り使えるのは有り難い。


 後は寝室・・・ベッド以外何も無い、よく見ると洋服箪笥ようふくだんすが置いてあった。

「私ベッドは持って無い」

「寝具のベッドは当然の備品です」


 隣の居間? にコタツがちょこんと置いてあった。

(これが私の寝具なんだけど)

 気になって、コタツのスイッチ入れてみた。

「お! 暖かい」

「暖房魔道具にしています」


 見渡すと、布団や毛布、押し入れに入れてた物が置かれてる。

「扇風機使える? コンセント無いけど」

「コンセントが何か分かりませんが、スイッチ入れると使えるようにして居ます」

 不思議コードレス? スイッチ入れると風が来た。


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