第47話 怠惰な王子は自分を悪役だと思い込んでいる

 俺達が準備を終えて、屋敷を出ると……そこには人々が行儀よく並んでいた。


 獣人と人族の二列に分かれ獣人側をユルグさんが、人族側をオルガがまとめている。


 その真ん中にはヨゼフ爺がビシッと立ち、秩序を保っていた。


「おおっ、なんかいい感じ」


「ですね。あの三人の役割分担が出来ているかと」


「うんうん、無理して仲良くさせるより時間をかけての方が良いよね」


 幸いにして、この辺境は人族と獣人族の関係は悪くはない。

それでも差別は起きるので、少しずつ良くしていこう。

人は余裕がないと、誰かのせいにしたりしちゃうしね。

 そんなことを考えつつ、ヨセフ爺に近づく。


「ヨゼフ爺、お疲れ様」


「エルク殿下こそお疲れ様でございます……皆さん!エルク殿下よりお言葉があります!」


「……はい? えっ? 何を言えば?」


「簡単なことです。これからどうしていくのかを改めて宣言して頂ければと」


「ああ、そういうことね。んじゃ、仕方ない」


 俺は門の前に出て、並んでいる住民達を見渡す。


「どうも、領主のエルクです。みなさんの協力もあり、無事にスタンピートを防ぐことが出来ました。こうして、皆で笑顔で会えて嬉しいです」


 俺はそこで、人々を見渡す。

 その目は、俺を期待する目だ。

 そうだ……破滅回避云々の前に、俺は彼らを守る領主なんだ。


「これからの起きる危機に一丸となって立ち向かうために、今回の催しを行うことにしました。身分や種族関係なく好きに食べて、そして協力して乗り切っていきましょう!」


「みなさま、お聞きの通りです。これから変わりゆくであろう辺境を、皆で守ろうではありませんか」


 ヨゼフ爺さんがそう言うと、人々が顔を見合わせる。

 そして、次第に声を上げていく。


「……俺はやるぞ!」


「そうだ! ここは俺達の住む場所だ!」


「私達も頑張ります!」


 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。


「俺も領主として出来る限りのことはやるつもりです! というわけで……飯だァァァァ!」


「「「ウォォォォォォ!!!」」


 そして皆で協力し、取り皿を持ってきた住民達に料理を乗せていく。

 パエリア、トマトスープ、唐揚げの三セットだ。

 並んだ順から、人々が食べ始めると……。


「なんだこれ!? サクサクしてうめぇ!」


「このスープ、いつもよりコクがある!」


「この米もいつもパサパサしてるけど、モチモチで美味い!」


 それぞれ、唐揚げ、トマトスープ、パエリアの感想だね。

 野菜も肉も取れてるし、オリーブ油は実は夏バテ防止にいい。

 野菜の吸収率を増し、それ自体も栄養価が高い。

 全ての食材にオリーブ油を使っているから、調和が取れているのもいい。


「うんうん、上々だね」


「ですが、圧倒的に唐揚げが足りないかと……むぅ」


 隣にいるシオンが不満そうな表情をしていた。

 多分、唐揚げが気になっているのだろう。

 こういうわがままを言うのは珍しく、彼女もここにきて少し変わったのかもしれない。


「まあまあ、またワイバーンを狩りに行けばいいさ」


「……そうですね。そのためにも、頑張らないと」


「そうそう、まずはここを乗り切ろうか……めちゃくちゃ行列だわ」


 いまだに続く行列を眺めながら、俺とシオンは苦笑いをする。

そしてある程度収まったので、交代をして二人でベンチに座って食べることに。

 目の前には嬉しそうにはしゃいでいる住民達がいた。


「まずは、スープからかな……ズズー……あぁー」


 思わず、口から声が漏れる。

 野菜の味、ワイバーンの出汁が混ざり合い、そこにトマトの酸味が加わっている。

 優しくも濃厚なスープが、疲れた身体に染み渡った。


「これ、疲れに良さそうですね」


「まあ、ビタミンとか栄養素が……」


「ビタミン?」


「ははは、なんでもない! ほら、唐揚げ食べよう!」


 ったく、油断するとこれだ。

 でも実際問題、このスープは栄養価が高い。

 トマト、玉ねぎ、キノコ、キャベツ、ジャガイモ、ナスなどが入ってる。

この辺りは暑さにも強いから使い勝手もいい。


「次はパエリアを……うん、いい味出してる」


 ワイバーンの出汁をたっぷり吸ったお米は、モチモチしてて食感が良い。

 時折出てる炒め玉ねぎやワイバーン肉が、またアクセントになる。


「これ、おかずなくてもいけますね」


「でしょ? これ単体でも完成する料理なんだ」


 そして、いよいよ唐揚げさんです!


「では、唐揚げを……くぅー! これこれ!」


 サクッとして、噛めば肉汁が溢れてくる。

 二度揚げしてるから時間が経っても美味しい。

 何より、オリーブ油で揚げてるからしつこくない。


「シオン、どう?」


「………もぐもぐ……ごくん」


「……シオンさんや?」


 唐揚げを食べ終えたシオンは、ぼうっとしてしまった。


「……なくなってしまいました」


「……美味しかったんだ?」


「……はい」


 そう言い、シュンとしてしまう。

 そんな姿は滅多にないので可愛いらしいや。

 ……まあ、前世を含めれば俺の方がお兄さんだし。


「はい、俺の分を食べな」


「えっ? ……い、いや、主君のを頂くわけには……」


「シオンは頑張ったしさ。それに、俺についてきてくれてありがとう」


「そ、それでは……あーん」


「……えっ?」


 シオンは口を開けて待っていた。

 いや、別にあーんをするとは言っていない。


「ふぇ? ……ち、違うなら違うって言ってください!」


「俺は何も言ってないし! ええい!」


 なんだか気恥ずかしくなり、そのままシオンの口に唐揚げを突っ込む。


「はぐっ……もぐもぐ……美味しいです」


「そ、そう、良かった」


「ふふ、何をやっているのだか」


「ねっ、本当に。そういえば、何か忘れてるような……ァァァァァ!?」


「ちょっ!? 主君!?」


 それを思い出した俺は、シオンを引っ張って厨房に行く。

 そして保管庫を開けて、作っておいたデザートを取り出す。


「そういえば、何か作ってましたね」


「いやー、忘れるところだった。ただ、みんなには悪いけど全員には配れないや」


「そうですね、下手に配ると差別が起きますから」


「んじゃ、今回は屋敷にいるメンバーだけにしよう」


「ええ、それくらいは許されるかと。狩りから調理、そして炊き出しまでしたのですから」


 そして住民達が完全に去った後、俺の部屋にメンバーが集まる。

 俺、シオン、ヨゼフ爺、アルル、アメリア、ユルグさん、オルガの七人だ。


「さて、皆さんお疲れ様〜」


「主君こそ、お疲れ様でした」


「うん、疲れたよー」


「そこは疲れてないというところでは?」


 シオンの突っ込みに、みんなが微笑む。


「ぐぬぬ……でも、実際に頑張った。つまり、ご褒美が必要!」


「まあ、否定はしませんが」


「と言うわけで、こちらがデザートになります!」


 テーブルに置いてある皿から布を取ると、そこには黄金に輝くデザートがある。


「これは綺麗ですね」


「でしょ? プリンっていうんだ」


「……またまた初めて聞く名前ですね」


「まあまあ、細かいことは気にしない。ささ、食べちゃお……ごくん……うまっ」


 濃厚な卵の味がダイレクトに伝わってきた。

 カラメルソースの苦味と、牛乳のほんのりした甘みが合わさり、複雑な味を醸し出してもいる。


「主君、お代わりを要求します」


「オイラ、こんなに美味しいの食べたの初めてです!」


「うむ、これは悪くない」


「いやはや、私のような老人でも食べやすいですな」


「お兄さん! これおいしー!」


「わ、悪くないわね!」


 それを見ていると、こっちも嬉しくなってくる。


俺の破滅回避できて、みんなも幸せならwin-winだね。


よーし、引き続き破滅回避目指して頑張りますか!







……こうして怠惰な王子は勘違いしたまま進んでいくのであった。








~あとがき~


これにて一章が終わりとなります。


完結っぽいですが、プロットを練り次第二部の投稿をいたしますので少々お待ちください(*´∀`*)


書籍化作業もあるので、編集さんと相談しつつ書いてまいります。

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怠惰な王子は自分を悪役だと思い込んでいる~破滅回避の為に領地開拓してたらいつの間にか名君に~ おとら @MINOKUN

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