第11話 ヨゼフ視点

……まさか、私が先王陛下以外に忠誠を誓うことになるとは。


国王陛下や、シグルド坊ちゃんにすら誓わなかったというのに。


まさか、あのヨチヨチ歩きだったエルク殿下に誓うとは……時が経つのは早いですな。


そんな風に私が私室で感慨にふけっていると、呼んでいた者がやってくる。


「シオンです、よろしいでしょうか?」


「ふむ、入りなさい」


「失礼します」


すると、綺麗な所作で扉をあけて入ってくる。

立ち振る舞いといい、中々の腕前と見ました。

これは、楽しみですな……だが、それは置いておきましょう。

これから、いくらでも時間はあるのだから。


「エルク殿下はどうなさってますか?」


「先程お眠りになりました。それで、私に用とのことでしたが……」


「ええ、お時間をとらせて悪いですな。少し確認したいことがあるので、お話に付き合ってくれますか?」


「はっ、もちろんです」


そう言い、私の対面のソファーに座る。

シグルドの弟子という割には、何というかきちんとした礼儀の持ち主ですな。

あの小僧は跳ねっ返りで手を焼きましたが……やはり、この子を鍛えることも考えますか。

エルク殿下には、この先のために頼りになる護衛が必要ですから。


「まずは、エルク殿下を無事に辺境に送り届けたことを感謝します」


「い、いえ、私が好きでやったことですから」


「国王陛下のお手紙にもありましたが、貴方はエルク殿下の専属護衛ということで?」


「はい、五年ほど前からになります。主君は当時十歳で、私は十二歳でした」


「ふむ、五年ほど前ですか……」


エルク殿下より六つ上の、アスラン殿下が王太子になった年付近ですな。

エルク殿下は、幼少期は割と利発的で魔法の才能があると噂された方。

そして十歳ともなれば、周りの様子や自分の立場に気づいてもおかしくない年頃。


「あの……?」


「おや、申し訳ない。それでエルク殿下は、貴方から見てどんな方ですかな? 私が知るエルク殿下は幼く、今の彼の方をよく知らないので」


「なるほど、そういうことでしたか。そうですね……怠惰ではありますが、お優しい方です。奴隷や獣人であっても、見下すこともありません。のんびりしている風に見えますが、意外と周りを見たりしていますし」


「ふむふむ、そういう感じですか」


あれだけの魔法力があれば、いくらでも王太子は狙えたはず。

暑さが増す大陸において、水と氷による恩恵は大きい。

そして治療場で見た、回復魔法の扱い……あれなんかは貴族に恩を売れるレベルでした。

あのあと聞いたら、怪我ばかりではなく体の内側も良くなったとか。


「ですが、力を隠していた点は見抜けませんでしたね」


「ほう? では、貴方の前でも?」


「はい、私もこちらに来てびっくりしました。それに、急に辺境を救いたいって言い出したり……もちろん、私にとっては嬉しいですけど」


「急に辺境を救いたい……怠惰なふり……魔法の力……やはり、そうなのでしょうか」


これからを合わせると、一つの道筋が見えてきた。

怠惰なフリをして王太子争いを避け、そして辺境に飛ばされるように仕向けた。

そして、こちらにきてからの本気度と実行。

そんなことを考えていると、ふとシオン殿が見つめてくる。


「如何なさいましたかな?」


「……ヨゼフ様も、同じ考えですか? 私は、敢えて主君が力を隠していたのではないかと思っております。そうしないと、説明がつかないことがありますから」


「ふむ……いきなり辺境を救いたいと言った点ですな?」


「はい、国王陛下に言われたとはいえ、ゴネることも出来たはず。何より、こちらでダラダラすればいいので」


「それはそうですな。ええ……実は私も、噴水広場の前で同じ考えに至りました」


だからこそ先王陛下に立てていた誓いを、新たにエルク殿下に誓ったのですから。

もうこのまま、ここで朽ち果てると思っていましたが……改めて思い出させてくれた。

先王陛下は状況が変わって王都を移したが、その間に私にここを預けたことを。

そして、昔のような姿を取り戻したいと仰っていた。


「やはり、そうなんですね。私は今以上に強くなって、主君の願いを叶えます。よろしければ、ご指導をお願いしたい」


「ほほっ、この老骨でよろしければ。では私は事務作業を頑張っていくとしましょう。エルク殿下は、そういったことは苦手そうですので」


「ふふ、じっとしてるのが苦手な方ですからね。エルク殿下の好きにさせるのが、私は一番いいのかなと」


「それが一番ですな。では辺境を救うため、シオン殿もよろしくお願いします」


「はっ、誠心誠意取り組んでまいります」


「では、共にエルク殿下を支えてまいりましょう」


そうして、私はシオン殿と握手を交わす。


先王陛下、情けない私をお許しください……しかし、もう一度だけやってみます。


まさか、この歳になって再び夢に向かっていけるとは……エルク殿下に感謝ですな。









しかし、この二人は知らない。


エルクが、ただ自分を悪役だと思い込んで行動していることを。


こうしてまた、勘違いした者が増えるのだった。

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