第10話 領主としての初仕事

そうとなったら善は急げだ。


俺は早速、都市の中を散策することにした。


部屋に閉じこもってたら何も解決しない。


そして都市を歩くと、シオンが言っていたことがわかる。


「……なるほど、確かに閑散としてるね。人も少ないし、痩せてる人も多いかな」


「申し訳ございません。野菜などはあるのですが、肉類などが不足しがちなのです」


「ふんふん、確かに肉は大事だね」


肉が不足するとアミノ酸や鉄分が足りない。

それは体の不調を起こすし、元気そのものが出なくなる。

前の世界でも肉を食べ続けてる人って、元気な人多いイメージだったし。


「北にある森から取れるのですが、この通り働き手も減っている状態でして」


「それは徴兵されるから?」


「それもあります。後はここでは稼げないので出稼ぎに行ったり、道を誤って山賊になる者もいるのです……私の責任ですな」


「そんなことない。それは国が悪いし、国王陛下や俺達の所為だよ」


どんな言い訳があろうと、最低限の暮らしを保証しないと。

前世では俺も貧しくて、心が荒んでいたこともあったし。

まずは衣食住を揃えてから、善悪はそれからだ。

無論、山賊になった全員を無実ってわけにはいかないけど。


「……あのエルク殿下がご立派になられて。やはり、噂とは当てにならないですな」


「あはは……ちなみに、どんな噂?」


「怠惰に過ごし、勉学や鍛錬もせずにいたとか」


「それ、全部あってますね」


「シオン! 言っちゃダメェェ!」


「ほほう? シオン殿、そこのところを詳しく教えてくださいませ」


先程の弱気は何処へやら、ヨゼフ爺の瞳がキランと光る。

そうして、俺は再びお説教を受けることに。

……まあ、ヨゼフ爺が元気になったからよしとしますか。

一通り都市を見て回り、現状を把握した。


「うん、全体的に寂れてるね。ただ、建物自体は汚れているけど残ってるっぽい?」


「はい、ドワーフの方々が作ったので作りだけは頑丈にできております。ただそれ故に加工や掃除なども難しく、中々に扱いが難しいのです」


「あっ、そっか……昔はドワーフ族と仲よかったとか」


旧王都だけあって、ここは昔は色々な種族と交流があったらしい。

それが王都を変えたことでなくなっていき、不可侵条約を結んだとか。


「それも今や、昔の話です。不幸中の幸いなのは、他国に攻められることがないことですが」


「それじゃ、それは置いといて……都市でこれなら地方の村とかどうなってるの?」


「それは……わずかな兵士達でどうにか食材を送ったり、後は税の軽減をしております」


「うわぁ……まずいなぁ」


もし主人公がいるなら、そういう小さな村の可能性が高いよね。

よくある、地方からの成り上がり的な。

そして仲間を集めてボスを倒しに……俺だね!


「ええ、そろそろ限界を迎える集落もあるかと」


「よし、そっちもどうにかしよう」


「……エルク殿下、そんなに甘いものでは無いのです」


「でも、やらなきゃ始まらないよ」


というか、やらないと俺が死んじゃうよ!

せっかく記憶を取り戻したし、やりたい事いっぱいあるのに!

そして、ヨゼフ爺が静かなことに気づく。

横を見ると、ヨゼフ爺が固まっていた。


「ヨゼフ爺?」


「はっ………失礼いたしました。まさしく、エルク殿下のいう通りですな。やっても無いのに諦めるなど……私も切り替えなくては」


「そそっ、ヨゼフ爺には働いてもらわないと」


「それで、何か考えがあるのですな?」


やばい、特に何にも考えてなかった。

とにかく、早く領地着かなきゃって。

ここでヨゼフ爺の信頼を失うわけにはいかない……そうだ!


「ふふふ、任せてよ。まずは、民を一箇所に集められるかな?」


「はい、それは可能です。幸いと言ってはいけないですが、人自体が減っておりますので。ただ、けが人は動けないかと」


「それじゃ、噴水がある中央広場に集めよう。その間に、怪我人のところに行こ」


「ちょうど、噴水広場の横にある建物ですな」


そして兵士に伝令を出したら、そのまま建物に入る。

そこは前世の記憶でいうところの、体育館のような感じだ。

仕切りがなく天井は吹き抜けで、広い一つの部屋になっていた。


「うぅ……」

「苦しい……」

「暑い……」


そこでは年齢や種族問わず、ベッドの上で人が寝転んでいた。

皆苦しそうに悶えていて、その横には看病をする人の姿がある。

どう見積もっても、百人以上は病人がいる。


「これは……酷いや」


「中々ですね」


「これが、辺境の現状です。冒険者も大しておらず、無理をして狩りや魔物退治に行ったり。栄養不足により引き起こされる病などに倒れる者が続出しております」


ヨゼフ爺が、申し訳なさそうに下を向く。

良く良く見れば、ヨゼフ爺自身も痩せている。

きっと、ギリギリまで頑張っていたに違いない。

……これって、結構危ないんじゃない?


「父上は知ってるの?」


「はい、一応は……あと少しだけ耐えてほしいと。王太子も結婚し、子供が無事に産まれたら国内から改革に乗り出すと」


「それって間に合わなくない?」


「……おっしゃる通りでございます」


どう頑張っても、二、三年はかかるってことだ。

少なくとも、目の前にいる人達は助からない。

それどころか、辺境全体が保つとは思えない。

父上達は、もしかして状況を把握しきれてない?

だからこそ、反乱が起きることをわかってないとか……うん、めちゃくちゃありそう。


「まあ、実際に目にしないとわからないかぁ……ここから王都まで情報が行くのも遅いし」


「それはあると思います」


「うんうん……その責任は、王子である俺にもあると」


「そ、そのようなことは……」


「ううん、良いんだ」


前世はともかく、今世の俺が甘やかされてきたのは事実だ。

飢えも知らないし、ぬくぬくと生きてきた。

だったら、その分くらいは還元しないとダメだよね。

俺は黙って中央辺りに進んでいく。


「エ、エルク殿下?」


「まあ、見ててよ。あのさ、中央にある大きな穴は何?」


広い空間の中央には、四角いスペースがある。


「じつは、ここは元々は大浴場だったのです。今では水不足もあり使われていないので、床を張り替えてこのような場所にした経緯がございます」


「ああ、なるほどね。それじゃ、水浸しになっても平気?」


「ええ、もちろんです」


「んじゃ、いきますか。出でよ氷の氷塊——アイスブロック!」


特大の魔力を込めて、温泉の跡地に幅高さ共に五メートルくらいの氷塊を生み出す!


「おおっ……涼しい……」

「ひんやりしてきた……」


よしよし、まずは小手調べだ。

次は怪我人の治療だね。


「この氷は削れるので自由に持っていてください! あと、怪我人の方々は回復魔法をかけますので順番に並んでください!」


「で、でも、お金は……」


そんな声があちこちから聞こえてきた。

そうだ、回復魔法を使える水魔法使いは限られている。

故に回復魔法を商売にする人もいるとか。


「ヨゼフ爺、タダはまずいよね?」


「よく気づきましたな。ええ、そうなると彼らの仕事や価値を奪うことになります」


「それじゃ、等価交換といこうか……皆さん! お金はいりません! その代わり——領地開拓を手伝ってください!」


俺の言葉に、住民達が顔を見合わせる。

静かに待っていると、一人が手を挙げた。


「あ、あの、具体的には何を? 全員が戦えるわけでは無いのですが……」


「別に戦うだけが全てじゃ無いですよ。掃除とか料理とか、後は裁縫とか野菜を育てたりとか」


「そ、そんなことで?」


「いやいや、それが無いと困ります。というわけで、怪我人は並んてください」


前世の記憶ある今、下請けや作物を育ててくれる人の有り難みは知っているから。

隣にヨゼフ爺がいることもあり、信用したのか住民が並び始める。

俺は一人一人にヒールをかけていく。

よしよし、領地開拓を手伝ってくれるし、ついでに好感度が上がるぞ。

それは俺の破滅回避に役立つはず。


「ふぅ、これでおしまい」


「「「ありがとうございました!!!」」」


「いえいえ、傷が癒えても体力は戻らないので無理はせずに」


治療を終えた人たちがベッドに戻ったり、建物から出ていく。

すると、ヨゼフ爺がぽかんとしていた。


「どうしたの?」


「エルク殿下、魔力の方は……?」


「ん? 全然余裕だよ」


「なんと……今まで隠していたので?」


「ま、まあね……あはは」


やばい、力を隠してたこと怒られるかな?

そっとヨゼフ爺の顔を伺うと……何やらブツブツ言っている。


「まさか、怠惰なフリ? しかし、なんのために? ここには教育のために送られたと記載があったのだが」


「ヨゼフ爺、大丈夫?」


「これは失礼いたしました。では、広場に戻りましょう」


仕事が終わったので広場に出ると、そこには多くの住民が集まっていた。

すると、ヨゼフ爺が用意された真ん中のお立ち台に立つ。

手招きをされたので、俺も慌ててお立ち台に登る。


「皆さん、静粛に。通達がいっていると思いますが、本日よりエルク殿下が領主となります。エルク殿下、ご挨拶と今後の指標についてお話しください」


「ど、どうも、領主になったエルクです。えー……俺は領地を変えに……ヨゼフ爺、だめだ向いてない」


「エルク殿下……」


「し、仕方ないじゃん、こういうの苦手だし……うん、そっちしよう」


ヨゼフ爺は呆れてたけど、こればっかりは仕方がない。

俺はお立ち台から降りて、シオンの元に向かう。


「シオン、俺をおんぶして都市を走り回れる?」


「クスクス……何かをやるのですね?」


「うん、俺なりのやり方で」


「はっ、お任せください。どうせ、こうなると思ってました」


シオンは何も聞くことなく、俺をおんぶしてくれる。

流石は俺と付き合いが長いだけあるね。


「ヨゼフ爺〜! 今は建物に人はいないね!?」


「え、ええ! それは確認しております!」


「おっけー! それじゃ——行ってきまーす!」


ヨゼフ爺の制止を無視して、シオンが走り出す。

俺もすぐに準備をする……アレを魔法で再現しろ。

イメージが大事というなら、今の俺ならできるはず。


「主君よ、どうしますか?」


「そのままゆっくり走って都市を回って。俺は魔法を放つから……清浄なる水よ、汚れを除去したまえ——アクアジェット高圧洗浄


俺の放った高圧洗浄により、地面の汚れや建物の汚れが落ちていく。

そして癒しの水を混ぜたので、バイキンなども除去されるはず。


「な、何という威力……」


「ふふふ、これが水魔法の真価だよ」


「い、いや、こんな威力見たことないですって」


「まあまあ、とりあえずどんどんいこー!」


そのまま都市をぐるっと回って広場に戻ってくる。

仕上げに薄汚れた噴水を掃除して、水を満たしたらデモストレーションは終了だ。

これで、少しは小綺麗になったでしょ。


「ふぅ、疲れた。ヨゼフ爺、大雑把にだけど綺麗にしたから」


「な、何という威力と魔力量……これを隠す理由など一つしか……エルク殿下」


「ちょっ!?」


何故かヨゼフ爺が膝をついて臣下の礼をとる。

現国王陛下にすら膝を屈せず、先代陛下にしか膝をつかないと言われた人が。


「たった今より、先帝陛下ではなく貴方様に忠誠を誓いましょう。どうか、辺境を救ってくださいませ。この老骨も力を尽くします故に」


「わ、私も頑張ります!」


「お、俺もだ! やってやる!」


「エルク殿下万歳!」


なんかよくわからないけど……結果オーライってやつかな?


よーし! この調子で破滅フラグを回避するぞ〜!

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