第3章ー6
「その話、お母さんも賛成しているの?」
「ああ、母さんも賛成している」
俺は、なんだか無性に虚しくなって、笑いが込み上げてきた。
「どうした? 父さん、面白いことでも言ったか?」
父は怪訝そうな顔をしていた。
「いや……俺も、とうとう、厄介者に成り下がって、この家を追い出されるのかなあって思ったら、なんだか悲しいのを通り越して可笑しくてさ」
「違うんだ、舜! そんなふうに、悪い意味にとらないでおくれ! 自分をそんなに卑下するもんじゃない!」
「だったらさー、どうして、こんな大切な話をするのに、母さんが不在なんだよ?」
「それは……」
父は、申し訳なさそうに俯いた。
「知ってるよ! 明日は北海道で泉のコンサートがあるから、母さんも泉と一緒に前乗りしているんだろ? ステージママも大変だねえ」
堪えていた怒りの感情の矛先が父に向かった。
「すまない、舜……俺たちはお前に、そんなに辛い思いをさせていたんだな。本当にすまない……でも、父さんたちの言い分をきいてくれないか? 決して、舜を追い出すとかそんなことじゃないんだよ」
「ああ、聞くよ、聞けばいいんだろう?」
もう、俺は、怒るのも面倒くさくなっていた。
「泉は、
(なんだ……それっぽい理由を言っているけど、結局、俺を追い出したいんじゃないか)
「いいよ、俺、おばあちゃんちに行くよ」
俺が即答したので、父は驚きを隠しきれていない様子だった。
「良く考えたのか?」
「考えるも何も、俺に選択肢なんてないじゃないか!」
そう言いながらも俺は内心、ピアノから、優秀な双子の兄から、父から、そして……母から逃げ出すことができることに心底ホッとしていたのかもしれない。
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