011 友人との再会

 俺をオタオークの群れから救ってくれたのは、ペロロさんだった。


 相変わらず、黒を基調としたゴスロリファッションをしている。


 森の中でそのブーツは、とても歩き辛そうだった。


 そして短いスカートと、ニーハイの隙間にある絶対領域がチラつく。


 とてもあざとく、自身の可愛さを前面に押し出したような服装だ。


 そう、ペロロさんはロリコンだが、中でも自分自身が大好きなナルシスとでもある。


 ちなみに性別は女性で、年齢は高校生2年の俺より年上らしい。


 つまり、この見た目で成人しているのである。


「どうしたんだい? 僕に会えてそんなに嬉しいのかな?」

「いや、ここにいるとは思っていたけど、まさか本当に会えるとは思っていなくて」


 このロリコンと鏡の森ダンジョンに、実際ペロロさんがいると思っていた。


 しかし広大なエリアで、偶然出会う確率は低い。


 それがこんな目立たない場所で、しかもイベント初日に出会えるのは、偶然にしては出来過ぎている。


「ああ、僕がクルコン君を見つけたのが、不思議なようだね?」


 するとペロロさんは俺の疑問を見透かしたように、ニヤリと笑みを浮かべた。


「簡単なことだよ。まず初めにクルコン君は、あの目立つ塔よりも先にお宝部屋を目指すだろう? そしてエリアの状況からして出現する敵の住処が、お宝部屋である可能性が高い。ここまではいいかな?」

「ああ、確かにその通りだ」


 ペロロさんはまるで探偵のように語りだしては、自身の小さな指を立てる。


 どうやら、俺を発見するだけの根拠があるようだ。


 いったい、どうして俺の居場所が分かったのだろうか。


 ペロロさんの次の答えを待つ俺は、思わず唾を飲む。


 そして、ペロロさんが俺を見つけた理由を語り出した。


「次にクルコン君は、とりあえずあのオークが多い方向を目指すはずさ。そうすればいずれ、お宝部屋に遭遇するかもしれないと思ってね」

「その通りだが、だとしても俺がどの方角に向ったのかは、分からないんじゃないのか?」


 俺は思った疑問を、そのまま口に出す。


「その通りだとも。だから僕は、この時のためにこれを用意したのさ!」


 だがその言葉を待っていたようで、ペロロさんはポケットから先端の青い小さな棒を取り出した。


「えっと、それは?」

「ふふっ。これこそ、特定のフレンドの場所を教えてくれる【友達捜索棒】だよ!」


 ペロロさんはそう言うと、しゃがんで青い先端を上にして地面に棒を立てる。


「棒さん棒さん。僕の友達のクルコン君はどこにいるのかな?」


 そしてその言葉を口にして棒を倒すと、青い先端が俺の方へと倒れた。


「え?」


 見た目がとてもショボい。だが、ペロロさんが俺を見つけたことを考えれば、効果は本物だろう。


「ぱっと見胡散うさん臭いと思うけど、これはダンジョンで手に入れたアイテムなんだよね。効果は同じダンジョン内にいるフレンドかパーティメンバーのいる方向を教えてくれるんだ。ただし、一度の探索での効果対象は一人までで、二人目は探せないアイテムなんだよ」


 何とも使い道が限られるアイテムだ。しかし、仲間とはぐれた時にはかなり有用だろう。


「なるほど。そんなアイテムを持っていたからか」

「うん。けどまあ、まさかあのオークの群れに追いかけられている事には驚いたけどね」

「ああ、これには理由があって実は……」


 俺はペロロさんに、オタオークの群れに追いかけられた経緯を話した。


 また同時にこれは教えてもらったことだが、俺を助けたときに使用したこの木のうろは、使い捨てのアイテムらしい。


 二十四時間だけ現れ、うろの中にいる間はモンスターやプレイヤーからの発見を防ぐようだ。


 俺は使用者であるペロロさんに招き入れられたので、認識することが出来るらしい。


 このイベントでは、とても使えるアイテムだ。


 だがそれをこんな場所で使わせてしまったことに、少々心が痛む。


「なるほど。あのオーク、オタオークの住処にはそんな上位種がいるとは……これは安易に攻め込むのは止めた方がよさそうだね」


 俺の話しを聞いたペロロさんは、冷や汗をかく。


 あの上位種のオタオークは、プレイヤーを見つけて住処にいるオタオークたちをけしけることができる。


 安易に近づくのは、危険だった。


 やはりあれは、大勢のプレイヤーで協力して攻略を目指す感じだろう。


「そういことだ。例え他のプレイヤーを追いかけさせたとしても、それで簡単に攻略できるとも限らない」

「上位種の強さも未知数だし、二人じゃ無謀だね」


 やれやれと言った風に、首を振るペロロさん。


 物語の主人公なら、何だかんだで攻略してしまうのだろう。


 しかし俺たちは当然、物語の主人公ではない。


 仮に敗北して何らかの形で自決が出来なかった場合、悲惨な目に遭う。


 特にペロロさんは、オタオークにとってたまらない獲物だと思われる。


 奴らのロリへの執着は、凄まじい。


 見た目がロリであるペロロさんが自決しようとしても、何がなんでも阻止をするはずだ。


 それに以前、【性癖暴露と望まれない誘惑者】というダンジョンで、ペロロさんはトラウマを負ってしまった。


 例えあれが夢の中の出来事だとしても、これ以上ペロロさんに負担を強いる訳にはいかない。


 というかそもそも、ペロロさんはこのまま俺と行動を共にする感じだろうか? 俺とは友達だが、もう組みたくないと言っていたはずだ。


 もし出会ったら協力しようとは考えていたが、それはペロロさんが同意したらになる。


 既に同行するような感じだが、念のため訊いといた方がいいだろう。


「ペロロさん。このまま一緒に行動する感じでいいのか? 以前、俺とはもう組まないと言っていたと思うけど」

「あっ……そ、それは、あの時は勢いで言ってしまったというかだね。別にクルコン君がいやという訳ではなくて……とにかく、時間が経って色々と吹っ切れた感じなんだよ。だから、もう一回僕と組むのは、いや……かな?」


 俺の問いかけに、ペロロさんが慌て始める。


 どうやら、あのトラウマをある程度克服したらしい。


 これで断るのは、あまりにかわいそうだ。


「いや、俺としても嬉しいよ。この世界での友達は、未だにペロロさんだけだし」

「僕だけ、なんだ……」


 どこか照れたように反応するペロロさん。


 顔を赤くして少しうつむきながら、自身の人差し指同士をくっつける仕草がとても可愛らしい。


 ペロロさんも友達が少ないようなので、俺の言葉が嬉しかったのだろう。


「それじゃあ、このイベントの間は一緒にやるか」

「い、いっじょに、ヤル……」

「ん?」

「す、少し噛んだだけだよ! そうだね! 一緒にイベントを楽しもうじゃないか!」

「あ、ああ」


 一瞬反応がおかしかった気がしたが、どうやら噛んだだけらしい。


 こうして俺は、このイベントの間ペロロさんと組むことになった。

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