010 オタオーク

 森の中を進みながら、俺はとある人物について考える。


 ペロロさん、大丈夫だろうか。


 ロリに対して中々の執着を持っているペロロさんは、ここにきている可能性が高い。


 しかし出てくるのはロリモンスターではなく、ロリコンのオタオークである。


 加えてオタオークは、プレイヤーのことがロリに見えているらしい。


 ペロロさんが簡単にやられるとは思わないが、いろんな意味でかなり心配だ。


 だがそうだとしても、この広いダンジョンでペロロさんを見つけることは困難だろう。


 まあ、ペロロさんも危なくなったら自決する術はあると思うので、気にしても仕方がないか。


 俺と以前組んだ時の悲劇もあるだけに、その部分は用意周到なはずだ。


 運よく出会うことを祈るしかない。


 ペロロさんの事を心配しつつも、俺は次に今後の方針を考える。


 とりあえず、お宝部屋を探すか。


 狙い目としては、オタオークの集落とかだろう。


 こういう森の中や草原などのフィールド型は、出現するモンスターの住処がそのままお宝部屋になっていることが多い。


 しかし分かりやすい代わりに、住処とだけあって敵が多く戦闘は過酷になる。


 無理そうなら諦めて、行けそうなら行くことにしよう。


 ただ問題は、肝心の住処がどこにあるかだ。


 鏡の欠片だらけの森では、オタオークの後をつけるのも難しい。


 他のプレイヤーが、住処に持ち帰られるところを狙うか?


 いや、その前に自決する可能性が高いし、そもそも遭遇するかも分からない。


 結局のところ、オタオークの数が多そうな方に向っていくほかなさそうだ。


 俺はそう考えて道中現れるオタオークを目印に、数の多そうな方角に向かう。


 なおオタオークは見つけ次第、毎回倒している。


 相変わらず、ピンクパルチザンはオタオークに対してかなり強い。


 複数体現れても、味方が邪魔で得意の突進もしてこないのも大きかった。


 オタオークは武器も持っておらず、力は強いが動きは単調だ。


 また連携も不得意そうであり、実質一対一を複数回行っている感じである。


「びぎぃっ!」

「ロ……リィ……」


 今も二匹倒し、残り一匹の状態だ。


 けれども、何やら残った一匹の様子がおかしい。


「ぶ、ぶひいいい!」


 オタオークは不利だと悟ったのか、情けなくも叫び声を上げて逃げ出した。


「待ちやがれ!」


 俺は咄嗟とっさに追いかける。


 途中他にもオタオークがいるが、逃げている個体はそれを無視して走り続けていた。


 当然他のオタオークが俺を狙ってくるので、見失ってしまう。


 くそっ、逃がしたか。


 だが、方向は覚えた。


 もしかしたら逃げた方向に、住処があるのかもしれない。


 俺は周囲のオタオークを蹴散けちらすと、その方向へと歩き出す。


 ただ森の中は迷いやすく、鏡の欠片もあるので方向感覚が狂いやすい。


 頬に入れていた小さなバックから方位磁石を取り出して、方向を確認する。


 逃げたオタオークは、どうやら西へと逃げたようだ。


 サバイバルでは必要だと思い、方位磁石を入れておいてよかった。


 そうして俺は方位磁石を確認しながら、西へと向かう。


 ◆


 しばらく進んでいると、次第にオタオークの数が増えていく。


 そして案の定、住処を発見した。


 思った通り、あのオタオークは住処のある方向へ逃げていたようだな。


 けれど、これはどうしたものか……。


 オタオークの住処は、木とボロい布などが使われた貧相な作りになっている。


 これに関しては、大したものではない。


 しかし問題はその数であり、見えるだけでも十数匹のオタオークがいた。


 おそらく住処全体には、数十匹はいるだろう。


 流石に、これを一人でどうにかするのは不可能だ。


 たぶん、他のプレイヤーと協力して討伐するのが本来の方法なのだろう。


 加えて、住処の奥にはオタオークの上位種がいる可能性が高い。


 今の俺では、どう考えても無理だ。


 ここは一旦引き返そう。


 方位磁石を一度しまってから、俺がそう判断をした時だった。


 突然近くの鏡が一瞬光ったかと思えば、そこにオタオークが映りだす。


 そのオタオークは、眼鏡をかけたボサボサの髪に小汚いジャージ姿をしている。


 またキーボードのような物をカタカタト打ち、『ッターン!』と勢いをつけた。


 そして鳥肌が立つような欲望に満ちた笑みを浮かべながら、俺を指さす。


 どう考えても、嫌な予感がする。


 俺は即座に、その場から駆け出す。


 すると予感は的中して、集落から数十匹のオタオークが出てきた。


 そして俺が逃げた方へと向ってくる。


「うそだろっ!?」


 流石にこれはヤバイ。


 まさか鏡を使って、俺の場所を特定してくるとは考えてもみなかった。


 オタオークは、ああ見えて突進してくる速度は速い。


 木々を薙ぎ倒しながら、俺を追ってくる。


 逃走重視のため、ピンクパルチザンを一旦頬へとしまう。


 この状況を打開できるアイテムは、持っていない。


 激臭の水鉄砲を使っても、焼け石に水だろう。


 それで止められるのは数匹だけだ。


 このままだと、いずれ追いつかれる。


 加えて逃走先にもオタオークがおり、俺を見て足止めしようとしてきた。


 だが流石に状況を理解していなかったのか、必死さがないため容易に回避可能だ。


 どうやら集落にいるオタオークだけが、命令を受けているらしい。


「ロリロリロリロリッ!」

「ぶひぃいいいいい!」

「オカス、オカス!」


 まずい、そろそろ追いつかれそうだ。


 しかしちょうど大木を通り過ぎようとした瞬間、俺の腕が突然引っ張られる。


「ッ!?」


 俺はそのまま暗い大木うろの中に引きずり込まれ、何者かに抱き着かれた。


「シっ、大丈夫。声を出さないで」


 どうやら敵ではなく、俺を助けてくれるようだ。


 俺はその声に従い、声を押し殺す。


「ロリッ?」

「ぶひっ?」

「ぶひひひ!」

「ロリッ!」


 オタオーク達は俺を見失ったのか、戸惑いの声が聞こえる。


 そして少しすると、どこかへと去っていった。


 た、たすかった……。


 流石に今回は、冷や汗が止まらない。


「ふふっ、やっぱりクルコン君は、また酷い目に遭っていたみたいだね?」

「え? いや、その声は……」


 俺のことを知っている人物で、この声色は一人しかいない。


 俺は確認のため大木のうろから出ると、その人物も一緒に出てくる。


 日の光に照らされて現れる人物は、俺の思った通りの人物だった。 


「実際にこうして会うのは、数日ぶりだね?」


 可愛らしい声色に、赤い瞳と小さな口がを描く。


 黒くつややかな腰までの髪と、その両サイドに小さなツインテール。


 前髪はパッツンで、いわゆる姫カット。


 そして背は低く、仮に女子小学生と言われても驚くことはない。


 しかしどこか妖艶ようえんな雰囲気のあるこの少女こそ、俺の数少ない友人。


 そう、幼精紳士ペロロさんである。

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