一部に短く伝える
翌日登校した俺は編入試験を受ける話を何人かにすることになった。
何人かといってもごく一部だ。
彼らには編入・転校が確定してから伝えることにした。
もし編入試験に不合格で、編入できませんでしたとなった時に、寄って
あいつら、情け容赦ないからな。
昼休みに
俺がいつもの階段踊り場に一葉を誘うと、何か勘違いしたのか、ちょっと期待するような顔になった。
「なに?」ぶっきらぼうな言い方がその逆を示している。
いや、そうじゃないんだよ。俺の性格をまだ理解していないのか?
俺が転校するかもしれないと言うと、一葉の顔に影が差した。
「なんでそんな話になるのよ……」
「まだ決まったわけじゃないし、行ってみて気に入らなかったら戻ってくることになるな……」行ってしまったら簡単にはもどるつもりはないが。
「そんないい加減にできる話じゃないでしょ」
「俺がいなくなるとさびしいか?」俺は意地の悪い訊き方をした。
「
「そこかよ!」俺の方が一葉を見誤っていたのか?
「
「言ってない。しばらく話もしていないな。
「自分の口で言いなさいよ」一葉はよくわかっている。
「そうだな、俺からも言うわ」俺が言わない限り日和に伝わることはない。
「当たり前でしょ」
あまり長話もできず、一葉は不機嫌な顔のまま離れていった。
次は
「
「なんだ、けっこう芦崎先生とコミュニケーションとってるんだな」
「相談は受けている。これでも俺は芦崎先生の先輩でもあるからな」
「大学同じだっけ?」
「違う。教師として先輩だ」
「偉そうだな」俺は笑った。「――あ、そうそう、俺の実の母親、
「やはりな。そう思ってみるとお前の顔は先生に似ている」
「空手やっていて父親と出会ったらしいぜ」
「美人だったが鉄拳制裁しそうな雰囲気があった……」
「どんな教師だよ。芦崎先生にも似ているのか?」俺は蒔苗の顔を覗き込んだ。
「似てるっちゃ、似てる。多分、お前の母さんの方が美人だったよ」
「言っちゃったな」
「でも芦崎先生の方が華奢で、守ってあげたいタイプだな」
「あ、いいです、そのへんで。それに芦崎先生を守るのはあんたじゃない」
俺は蒔苗に手を振って立ち去った。
芦崎にバツイチ教師は似合わない。しかし、だからといって芦崎にふさわしい男などいくら探したって俺の周囲にはいなかった。
「俺が十年早く生まれていたらな」芦崎の隣にいる俺を妄想してみた。
「――やっぱ、ないわー。俺がダメだな」
俺はひとり笑った。
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