二月十四日③

 生徒会室に前生徒会長の神津真冬こうづまふゆはまだいた。

 もうすぐ卒業だというのに生徒会室に時々入り込んで後輩と話をして帰るのを俺は知っていた。だから今日もいるのではないかとアタリをつけたのだった。

 そして見込み通り真冬まふゆはいた。他にも何人か役員がいたが、俺の姿を見て反応したのは真冬だった。

「珍しい人が来たわ」真冬は立ち上がって手招きした。「に来たのね、いらっしゃい」

 他の生徒たちは見ていないふりをする。

 俺は堂々と中へと入った。

 長机のひとつに、膝をつき合わせるかたちで俺と真冬は対峙した。

 眉がはっきりとした綺麗な顔だ。俺や日和とは違う大人の風情があった。

「巫女の舞い、見たよ。今年が最後なのか?」

 二つ年上だが幼馴染みでもあり、俺と真冬の間ではタメ口が当たり前になっていた。

 よく知らない生徒には俺は不良に見えただろう。

 どうして前生徒会長とタメ口を利けるのか不思議に思っているだろうな。

「京葉大に受かったら、大学近くで一人暮らしをするつもりよ。そうなるともうこちらには滅多に帰ってこない」

 そういう話には聞き耳が立つ。四人いた生徒がみな俺と真冬の会話に集中した。

「俺、遊びに行って良いのかな?」

「一人で来る気?」

「もちろん」

「嘘だね、それ」真冬は笑った。

「まあ、その時になってみないとわからないよ」誰かを連れていくなんてことは絶対にないけれどな。

「あ、そうそう、忘れないうちに」真冬は鞄に手を入れると小さな包みをこっそり取り出して俺に握らせた。「義理堅いでしょ?」

「サンキュー」

「十倍返しかな」いくらだよ?

「義理の値打ちがわからないよ」

「地球よりも重い」

「は?」

日和ひよりちゃんからもらった?」

「会ってない」

「そうか、日和ちゃんなら火花ほのかの家まで行くものね」

「用があればな」

「あるから行くわよ、絶対に」

雷人らいとには用があっても俺にはあるかわからない」

「そうね、火花ほのかはあちこち彼女がたくさんいるものね」

「いないぞ、ほんと!」思わず声が出る。

「自覚がない罪作りだわ、君」真冬は俺の耳元に顔を近づけた。「誰にでも挨拶代わりにチューする癖は直した方が良いよ」

 俺は慌てて真冬から離れた。

 刺激が強すぎる。ほんとうにチューしてしまうぞ。

「それって、いつの頃の話だよ」

「さあ、いつかしら」

「参ったなあ」そんな昔のことは覚えていない。

 俺はおもむろに立ち上がった。

 五時近くになっていた。

「三倍返しくらいはするよ」どんなかたちで?

「あら、嬉しい。期待してるわ」ほんとうか?

「じゃあな」

 生徒会役員たちの異星人を見るような視線を感じながら俺は退室した。

 さて――ちょうど良い頃合いだ。

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