鋼鉄の双子
二ノ
第1話 - 下月 Kagestu
下月は爆発音に驚いて目を覚ました。ベッドから飛び起きて窓に駆け寄ると、街の一角から黒い煙の柱が立ち上るのが見えた。それは、現政権を倒そうとする反乱軍によるまたしてもの攻撃だった。
下月はため息をつき、窓から離れた。彼は戦争中のどちらの陣営にも属しているとは感じていなかった。いや、それどころか、腐敗しきったこの世界に自分の居場所があるとは思えなかった。
彼はただの16歳の普通の少年で、過酷な環境の中で生き延びるために奮闘し、唯一の使命として、世界的な核戦争によって荒廃した現実の中で妹を守ることに集中していた。
戦争の原因は明らかだった。数世紀前、人類は魔法を発見し、それを軍事科学と結びつけてしまった。その結果、この取り返しのつかない状況に至ったのだ。
下月は部屋の壁に掛けられた割れた鏡を見た。そこには青白くやせた顔、短く乱れた茶色の髪、そして2つの異なる目が映っていた。右目は緑、左目は黒。その両方が悲しげな光をたたえていた。
また、彼は自分の左腕がないことにも目をやった。ベッドの横の擦り切れた椅子には、彼の機械の義手が置かれていた。
それは古いがまだ動くもので、幼い頃に両親によって取り付けられたものだった。
台所からは食器の音が聞こえてきた。下月は急いで義手を装着し、部屋を出た。
彼の双子の妹である弓月はすでに起きていた。彼女は白いブラウスと青いスカートを着ていた。茶色の髪は2つのポニーテールにまとめられていたが、最も目を引くのは、彼女の左目を覆う黒い眼帯だった。
弓月は、下月が左腕を失ったのと同じ事故で左目を失っていたのだ。
「下月、座って。これ、作ったから食べて。」彼女は優しくも毅然とした口調で言った。
「時間がないんだ。仕事に行かなきゃ。」下月はリュックをつかみ、ドアに向かった。
弓月は彼の前に立ちふさがり、指を彼の胸に突きつけた。「空腹のままどこにも行かせないわ。エネルギーを得るには食べないとダメよ。いつも頑固なんだから!」
下月はため息をつき、手を上げて降参の意を示した。「わかったよ、わかった。でも急いでくれ。」
弓月は勝ち誇ったように微笑み、テーブルへ向かった。そこにはトーストしたパンの一切れ、缶詰の肉のいくつか、そしておそらく最後の蓄えで作られたスクランブルエッグが2個分置かれていた。皿の横には湯気の立つブラックコーヒーのカップが置かれていた。
「大したものじゃないけど、これが全てよ。」彼女は皿を差し出しながら言った。
下月は席に着き、黙々と食べ始めた。弓月は彼の向かい側に座り、欠けたマグカップでコーヒーをすすっていた。
「ラジオで聞いたけど、また別の街が壊滅したらしい。」弓月は沈黙を破るように話し始めた。
「食料や水を手に入れるのもどんどん難しくなっている。このままどれくらいやっていけるんだろう。」
下月はゆっくりと噛みながら彼女を見上げた。「あんまり考えすぎるな。俺たちはこれまで通り何とかやっていける。俺がちゃんと管理してる。」
「全部を一人で背負うのは無理だよ。」弓月はカップを置いて言い返した。
「それに、全ての責任をあなた一人に押し付けるのは不公平だよ。私たちは家族なんだから、一緒に乗り越えないと。」
「お前はもう十分頑張ってる。毎日早起きして家事をしてくれるだろう。残りは俺に任せろ。」
弓月は首を振り、心配そうな表情を浮かべた。「でも、もしあなたに何かあったら?私には耐えられない。」
下月はフォークを置き、彼女の肩に手を置いた。「聞け、弓月。俺はどこにも行かない。大丈夫だよ。約束する。」
弓月は視線を落とし、感情を押し殺しながら小さくうなずいた。「本当にそうだといいけど。」
朝食を終えた下月は立ち上がり、リュックを手に取った。
「朝ごはん、ありがとう。美味しかった。」
「下月、待って!」弓月の声が、彼がドアを開ける寸前で引き止めた。
彼は振り返り、片方の眉を上げた。「どうした?」
弓月は彼に微笑んだ。その笑顔はどこか脆く、ひび割れた窓のようだった。「良い一日を…気をつけてね。」
「また夜に。」下月はそう言い、彼女の頬に軽くキスをして家を出た。
弓月はしばらくの間、ドアのそばに立ち尽くし、下月が消えていった場所をじっと見つめていた。そして、ため息をつき、台所へ向かい、日課の家事を始めた。
部屋は狭くて散らかっていたが、弓月はできるだけ綺麗に保つようにしていた。彼女は布巾を手に取り、少し前に朝食を取ったテーブルを拭き始め、その後、シンクに溜まっている少数の食器を洗い始めた。水道の音は気を紛らわせてくれたが、心の中の不安な感情は完全には消えなかった。
棚の埃を払っていると、彼女の目は箱の後ろに隠してある小さな本の山に留まった。それらは彼女が夜中の散策で拾ってきた日本の小説や漫画、ライトノベルだった。弓月はその古びた表紙の一つを指でなぞりながら、かすかに微笑んだ。
それらの物語は彼女の心の避難所であり、彼女が生きる残酷な現実から一時的に逃れる手段だった。
「今夜もまた出かけてみようかな……」と、彼女は自分に言い聞かせるように小声で呟いた。下月には絶対に賛成されないと分かっていたが、それでもやめられなかった。物語を読むたびに、彼女は少しだけ良い世界に近づけたように感じられた。それは、希望がただの幻想ではない世界だった。
しかし、その夜はいつもと違った。弓月は妙に落ち着かなかった。数日前に受けた電話のことが頭から離れなかったのだ。それは緊急の連絡で、下月にはまだ話していなかった。もうすぐ、政府の施設がある首都、
弓月は家事に戻り、疑念や不安を振り払おうとしたが、胸の中の不安は消えなかった。本の山は彼女を呼んでいるかのように見えた。
それは、未知に立ち向かう前の最後の逃避のひと時を約束しているようだった。
一方、下月は仕事に向かいながら足早に歩いていた。彼はやみ市近くの修理工場で整備士として働いていた。そこでは合法・違法問わず、あらゆるものが取引されていた。
彼は黒いTシャツに破れたジーンズ、そして革のジャケットを身にまとっていた。彼のリュックには工具と、最も大切な所持品であるノートパソコンが入っていた。
修理工場へ向かう道は閑散としており、軍のパトロールが数台、地域を監視しているだけだった。下月は検問を避けるために路地裏を通って進んだ。
「下月、待って!」弓月の声が彼の心に響き渡った。彼女が出がけに言った最後の言葉だった。その声を思い出すと、彼の心には奇妙な感覚が広がった。
それは、あれが弓月の笑顔を見た最後の瞬間になるかもしれないという予感だった。
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