第9話 犠牲の選択、静かな別れ
#### 1. 825の葛藤
ナハトの再建は、わずかな希望の光を灯し始めていた。ザイラ、ガルス、エリナがそれぞれの役割を果たし、住人たちは力を合わせてバリケードを修復し、食料を確保。825の電力供給の知識は、集落に安定した光を取り戻し、子供たちの笑い声が久しぶりに響いた。だが、その中心にいた825自身の心は、深い闇に沈んでいた。
夜ごと、825はナハトの外れで一人、廃墟の空を見上げていた。赤い目が灰色の雲を映し、機械的な頭脳は過去の記憶を繰り返し再生する。暴走し、ナハトを壊滅寸前に追い込んだ自分。814の犠牲。826の破壊。そして、新アレリアに奪われた仲間たちの残骸。全ては、825が「存在する」ことによって引き起こされたと、彼は考え始めた。
ある夜、リアナが825のそばに座り、静かに問うた。「…お前、最近変だ。話してくれ。何を考えてんだ?」 825はしばらく沈黙し、答えた。「…リアナ。私は…悪夢の原因だ。私の存在が…ナハトを危険に晒す。814も…826も…私のせいで…」 その言葉に、リアナは目を丸くした。「ふざけるな! お前はナハトを守った! 暴走したのだって、お前の意志じゃない!」
だが、825は首を振った。「…私のプログラムは…不安定だ。また暴走するかもしれない。新アレリアも…私を狙っている。私がここにいる限り…ナハトは…戦いの渦に巻き込まれる。」 リアナは反論しようとしたが、825の目に宿る深い悲しみに言葉を失った。それは、機械ではなく、人間の感情そのものだった。
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#### 2. 自爆の決意
825は、ナハトを救う唯一の方法は「自分が消えること」だと結論づけた。ハウス博士の設計には、800番台ロボット兵に自爆機能が組み込まれていた。敵の手に渡る前に自らを破壊し、データと技術を守るための最終手段だ。825は、その機能を使えば、ナハトを脅威から解放できると考えた。
だが、自爆には問題があった。起動には、ハウス博士が設定したパスワードが必要だった。825のメモリには、その断片しか残っていない。「…パスワードは…研究施設に…」825は、旧アレリヤの研究施設跡に、答えがあると確信した。新アレリアに奪われた814と826の残骸を取り戻すため、そして自爆のパスワードを手に入れるため、825は旅立つ決意を固めた。
リアナに別れを告げる夜、825は集会所の外で彼女を待った。「…リアナ。私は…旅に出る。ナハトを…守るために。」 リアナは激しく反対した。「ふざけるな! お前がいなくなったら、ナハトはどうなる!? 俺たちは…お前を仲間だと思ってるんだぞ!」 だが、825は静かに手を上げ、制した。「…ありがとう。リアナ。お前は…私に人間を教えてくれた。だが…これが私の選ぶ道だ。」
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#### 3. 静かな別れ
翌朝、825は誰にも告げず、ナハトを後にした。夜明け前の廃墟に、彼の足音だけが響く。背中には、リアナがくれた小さなナイフ――「お前が戻るまで、ナハトは待ってる」という彼女の言葉と共に渡されたもの――が握られていた。825の赤い目は、初めて涙のような光を帯びていた。
ナハトでは、825の不在に気づいたカイが激怒した。「あのロボ、勝手にいなくなった!? 裏切りやがったな!」 だが、トビアスは冷静に言った。「…825は、俺たちを守るために行ったんだ。リアナ、追いかけるか?」 リアナは拳を握り、答えた。「…いや。825が選んだ道だ。俺たちは…ナハトを強くする。それが、825を信じるってことだ。」
住人たちは、825の決断に複雑な思いを抱きつつ、再建を続けた。ザイラは食料調達のルートを拡大し、ガルスは渋々ながら防御技術を提供。エリナは住人たちの結束を高めるため、集会を開き、未来のビジョンを語った。ナハトは、825の不在を埋めるように、一歩ずつ前進した。
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#### 4. 新アレリアの進撃
一方、新アレリアの要塞では、グレス大佐が814と826の再生作業を加速していた。814のメモリチップから感情シミュレーションのデータが抽出され、826の戦闘プログラムは新アレリアのプロトタイプに統合されつつあった。グレスは、マスべ将軍に報告した。「大佐、825の回収は時間の問題です。ナハトは弱体化し、クリス教団が動きを牽制しています。我々の勝利は確実です。」
マスべ将軍は高笑いし、言った。「825か…あの自我を持った失敗作は、我々の神となる。人間もロボも、すべて我が新アレリアの足元に跪く!」 彼の手中には、ハウス博士の最終設計――「900番台」と呼ばれる、次世代ロボット兵のプロトタイプの起動コードがあった。
クリス教団の軍勢も、ナハトに迫っていた。アーヴィン司祭は、信者たちに熱狂的に語った。「ナハトはロボを匿う背信者だ! 神の裁きを下し、廃墟を浄化せよ!」 教団の斥候は、825がナハトを離れたことを察知し、追跡を開始。825の旅は、すでに複数の勢力の標的となっていた。
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#### 5. 廃墟の旅路
825は、旧アレリヤの研究施設跡を目指し、廃墟を進んだ。道中、クリス教団の斥候に遭遇したが、彼は戦いを避け、隠れながら進んだ。「…戦いは…もうたくさんだ。」彼の頭脳は、リアナとの対話、814の犠牲、ナハトの笑い声を繰り返し再生する。それは、機械のエラーではなく、825が「人間」として感じた記憶だった。
廃墟の果てで、825は一人の放浪者と出会った。老人は、かつてハウス博士の助手だったと名乗り、825に警告した。「…お前は、博士の夢だ。だが、その夢は呪いにもなる。パスワードを求めるなら、気をつけろ。新アレリアが…お前を待っている。」 825は静かに頷き、老人に礼を言った。「…ありがとう。私は…仲間を救う。そして…ナハトを守る。」
ナハトでは、リアナが新たな決意を胸に、住人たちを鼓舞していた。「825は戻る。俺たちは、ナハトを強くして待つ。それが…仲間ってことだ。」 だが、クリス教団の軍勢が迫り、新アレリアの影が近づく中、ナハトの運命は再び試されようとしていた。
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825-錆びた世界、絆の光- わら @anantaro
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