「金魚はみんな、死んでしまった」
不穏で、けれどどこか美しいこの一文から、物語の幕が上がります。
東京での生活に少し疲れたヒロインが、帰省先で再会した「あの頃」の憧れ。
懐かしい空気や触れそうで触れない距離感。
そんなふわふわとした期待が、丁寧な筆致で描かれています。
けれど、読み進めるほどに、きらきらした情景の裏側に潜む「割り切れない予感」がじわじわと胸に迫ってくるのが非常に面白いです。
誰もが持っている、若さゆえのズルさや、寂しさを埋めたい焦燥や完璧にきれいな思い出になれなかった二人の、少し苦い選択。
夏の終わり特有の「エモさ」と「毒」を同時に味わえる、質感豊かな一編です。