ニア・ダーク 月夜の出来事

 いまでは社会派のイメージの強いキャスリン・ビグロー監督の初監督作品です。

 ニューヨークなどの都会ではないアメリカの「生活」が垣間見えたり、ある種の「断絶」が垣間見える。

 いま見直すと、舞台となった国、その場所の現状を横目に、いろいろと思いあたるふしもある作品。


 と、いう真面目な話はさておき、どうしてブルーレイのパッケージ、VHSのパッケージデザインを踏襲しなかったんですか?!

 いや黒焦げが悪いってわけじゃないんですけど!


「ニア・ダーク 月夜の出来事」

 原題「NEAR DARK 」

 1987年製作(米)

 日本版DVD有BD有

(日本語吹替あり。ただしBDのみの収録)

 監督:キャスリン・ビグロー

 脚本:キャスリン・ビグロー/エリック・レッド

 ケイリブ:エイドリアン・パスダー(速水奨)

 メイ:ジェニー・ライト(佐々木優子)

 ジェシー(ジェフ):ランス・ヘンリクセン(小林清志)

 ジャンル:ホラー

 時代背景:二十世紀アメリカの架空の田舎町


『あらすじ』

 農場を営む父を持つケイリブは、夜には町へ出て悪友たちとつるんでいる。在る夜、見かけない可愛い女性を目に留め、声を掛ける。

 夜のドライブ。

「夜は輝いている」という彼女……メイのことを変わった子だなと思いつつ、自分の農場を見せるケイリブ。

 彼女の存在に、なぜか馬が怯えているようだ。

 夜明けが近づき、彼女が焦り出す。

 キスしてくれたら彼女の家まで送ろうというケイリブに、メイはキスする。

 唇に……喉に!

 ケイリブの喉を血が出るほど咬んだメイは、そのまま車を出て、走って逃げていく。

 夜が明けてゆく。

 帰宅を急ぐケイリブの身体に異変が。

 道を急ぐケイリブの身体から、煙が吹き出してきたのだ。

 早朝、馬の世話のために起き出してきた父親と妹、家族の目前で、ケイリブは謎のトラックに連れ込まれ、連れ去られたのだった。

 トラックにはメイをはじめ、仲間のとりまとめ役で冷酷なジェフ、その恋人ダイアモンドバッグ、荒っぽいセブレン、少年の姿のホーマーの五人が乗っており、メイは「一族になったの」とケイリブに告げた。


 一方、目の前で息子を掠われた父親は、警察にそのようすを訴えるが、腰の重い警察の対応に、みずからも息子を探索することを決意する。


『物語のあれこれ』

 近作では、「デトロイト」で1967年のデトロイト暴動を描くなど、社会派の色合いの濃いキャスリン・ビグロー監督の、監督第一作。

 テキサスを思わせるアメリカのどこか。

 農場は広大で、隣近所の『家』など、見渡す限りありません。

 主人公のケイリブは、朝早くから家畜と作物の世話をし、会話するのは家族とだけ。

 そういう生活に、ちょっとうんざりしつつ、誇りも持っている。家族に対しても同様。

 親族だけの共同体で、共同体の中で起こったアクシデントも、できる限り自分たちで解決する。

 西部開拓時代から連綿と引き継がれたケイリブの家族のような「家族」像は、間違いなくアメリカ的です。

 また、キャンプ場や幹線道路沿いのモーテルを転々としながら、強盗、殺人、放火……残虐な事件を起こしてゆく「血族」。

 根無し草的な放浪生活に生きるアウトロー、血の繋がらない者たちが一種の共同体を作っている。

 本作のダイアモンドバッグとジェフを中心にした「疑似家族」、これもまたアメリカ的「家族」の一側面でしょう。

 主人公は、平凡で居心地が良く、安心できるけれども旧態依然として代わり映えのない「家族」と、危険に満ちているけれども刺激的で魅力的な「家族」とのあいだで揺れ動く、いまどきの若者、ということになるのかもしれません。

 そう考えると、ラストのケイリブと、ケイリブの父親の選択というのは、なかなか象徴的です。

 本作の吸血鬼の特徴は、頻繁に血を飲まねばならないこと、咬みつくだけで仲間になるので、血を吸ったあとの死体は燃やしておかないと(仲間がどんどん増えるので)いけないことと、日光で燃えることです。

 黒焦げから始まって、あっという間に燃えてしまいます。火災に巻き込まれるなど、日光以外のべつの方法で燃えても、滅びてしまうようです。


 吸血鬼映画というと、一種父権的な怪物が、悪魔的な力で人間をつぎつぎ配下におさめてゆく……そういう物語か、あるいはひとりの人物とのロマンスが主流でした。

 しかし、1980年代から、「共同体」を意識した作品が目立ってきました。

 吸血鬼の青年たちが独自の共同体を作って町を荒らし回る、不良仲間としての吸血鬼の共同体を描いた『ロスト・ボーイ』(1987年・米)が本作と同年に公開されているのも象徴的です。

 ちなみに疑似家族としての吸血鬼たちの彷徨を描いた『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年・米)の原作『夜明けのヴァンパイア』がアメリカで出版されたのは、1976年。

 孤独な侵略者から、異端者たちの「共同体」へ……1970~1980年代は、時代の求める「リアル」が変わりつつあった時代だと言えるかもしれません。

 吸血鬼が「孤独な侵略者」であったころ、「共同体」を形成して立ち向かうのは、つねに人間だったのですが。

 また、本作では、吸血鬼たちが「共同体」……疑似家族を形成せざるを得ない理由についても説明されています。

 永遠を生きる者たちの寂しさ。

 殺人の享楽では埋め切れない寂しさゆえに他者の血を求め、仲間に引きずり込む。

 そこには支配・被支配の強い図式はありません。

 だからこそ、人を殺せないケイリブを役立たずだと罵りつつも、ジェフたちは、ケイリブをほかの人間たちを殺すようには、殺そうと……見捨てようとしません。

 本作は、そういう吸血鬼のもつ「内面」におおきく踏み込んだ作品だと言えるでしょう。



 本筋とは関係のないところで気になっているのですが、ケイリブのお父さん、ケイリブを家に連れ帰ると、すぐに自分の血を抜き、ケイリブの吸血鬼化を治すために輸血を始めるのですが……輸血用の針とかチューブとか道具一式、家に完備してあるのはアメリカの農場では当たり前なのでしょうか?

 家畜の手術用……?

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