まあ、1打席目はね。
それなりに上手く打ったがファーストの守備範囲。ハーフバウンド気味になった打球を上手に捌かれてしまい1アウトとなった。
俺は同じような攻めになるかとイメージを抱きながらバッターボックスに向かう。神沢だからと、特別なことはない。他のピッチャーと同じ。
しかし、着ているユニフォームが互いに違えど、札幌や宇都宮の地で対戦した時のことが頭に過ってしまうもの。
俺はそんな思い出のようなものを振り払いながら、初球から手を出していく。
インコースよりのボールだった。若干タイミングが早く、ややバットの先に当たった打球が3塁側のスタンドへ飛び込んでいった。
「尾口さん、新井は初球から狙っていきましたね。インコース、また神沢はチェンジアップから入っていきました」
「これも距離感を計りにいきましたかね。新井は平柳と同じようなスタンスで打席に入っていると思いますが、チェンジアップという球種がやはりこの2人とのポイントになりますかね」
ちょいと抜いてきましたか。平柳君の時はボールにしてきたとはいえ、入りがまたチェンジアップというのは、相当自信があるというところでしょうか。
それとも、大得意のスライダーやフォークをいきなりは使いたくないのか。
これより後のバッターには使うのか、ちょっとまだその先が見えない部分はある。
それでも、平柳君にはボールにして俺にはインコースのゾーンでストライクにしてくるわけですから、彼はやはり俺に対してはそれなりの自信があるようだ。
平柳君には、引っ張り込んでのホームランがあるとはいえ、俺には簡単にストライクゾーンに投げてきたわけですから。
俺には叩かれても、レフト線へのフラフラフライが関の山と、そんな考えなのだろうか。
ですから、次のストレートがアウトコースにきた時は、見ておれよと、少し力んでしまった。
「打ちました!またファースト!1、2塁間、難しいバウンド、これも捌きました!
ベースカバー、神沢に送球しまして2アウトです!ファーストのマーカス、今日は守備が安定しているようです。先週は3つのエラーがありました」
「逆に難しい打球で良かったというように見えますね。一生懸命捕りにいかないといけませんのでね。そのエラーというのも、ちょっと余裕のある打球や何でもない捕球ミスでしたからね。今日は失敗出来ませんから、本人も必死ですよ」
ちぃ。あのファーストめ。また上手く捌きやがって。怪しかったら、バントでも何でも狙っていけよと、ミーティングでもありましたけど、いきなり2ついいプレーをされてしまった。
普通に上手いじゃありませんの。
お下手と聞いていましたのに。
ブンッ!
ブンッ!
ブンッ!!
「シット!!」
ランナーも居ないしと、バーンズは平柳君と俺とには投げてきたチェンジアップ1本狙いだったようだ。
ですなら、カットボール、ストレート、カットボールと3球豪快に空振りして三振を喫した。
互いに負けた場合、首位陥落もあるゲームの立ち上がり、まずは1回表を神沢はテンポよく、上手く投げたピッチングとなった。
そして対する前村君である。
神沢が隙のない完成度に優れたピッチャーなら、前村君はサウスポーであることと、球の速さに突出したピッチャーである。
もちろん、コントロールと変化球も1級品だが、それは最速100マイルに迫る速球があってこそ。
神沢はいきなり邪道な配球を見せてきたが、前村君は小細工なしの真っ向勝負だ。1番バッターのバットをへし折り、2番の強打者からも得意のフォークボールで三振を奪った。
「バティサー、ファーストベースマン、マーカース!!」
ガキッ!!
「初球、ボール球に手を出してしまいました!ファーストの右、ファウルグラウンド。アンドリュースが落下点掴みまして3アウトチェンジです」
「何をやってんだ、このやろう!あのボールには手を出すなって言っただろうが!!」
という感じの罵倒がこっちのベンチまで聞こえてきましたよ。
近くのスタンドにいたお客さんや、ボールボーイもびっくり。
「なんすか、なんすか?」
「ほら、今アウトになったマーカス君だよ。初球のボール球に手を出してファウルフライになったから、コーチに叱られていたみたいだ」
「ああ、なるほど。新井さんもビクトリーズ時代はよく怒られていたって聞きましたけど。仙台で萩山監督のおにぎりを食べたりとか………」
「それは全然違いますわよ!!さすがに監督のおにぎりは食わんわ。いつも盗み食いしていたのはお菓子」
「いっしょっす」
「いっしょじゃないの!」
そういうわけで前村君もナイスな立ち上がり。
そして試合はそのまま投手戦の雰囲気になってきた。
かつては、東の神沢、西の前村と言われ、毎年のように沢村賞争いに名を連ねていた彼らですから。
そんな2人がメジャーリーグの舞台でぶつかり合うとなれば、譲らないはずがない。
神沢は時折カットボールとチェンジアップを交えながらバッターに狙い球を絞らせない巧みな省エネピッチング。
前村君は最速99マイルの直球と鋭く落ちるスプリットでコンスタントに三振を奪うピッチングを披露した。
タイプの違う2人だが唯一同じなところがあるとすれば、きれいな回転のフォーシームファストボールがやはり軸であるというところだろうか。
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