まあ、元々エレファントサイズですけどね。

バーンズはすぐに2塁に向かって行きましたから、コーチングの必要はないと判断したのが、遅刻した相手を待つかのように、地面を足でならしながら頭をポリポリ。



退かないというよりかは、暴投したことにすら気付いていないような所作で、カバーに入ったセカンドの選手をさり気なく邪魔するという、コーチャーもメジャースピリッツ。



もちろん、こっちから邪魔しにいってはダメですから。バーンズがすぐに2塁に向かってくれれば、ゴー!ゴー!と言う必要もありませんし、自然に2塁への送球動線に入って進塁をアシストすると。



日本で同じことやったら何か怒られそうですけど、こういう強かなところもね。アメリカだなぁと、俺は妙に感心してしまっていたら……。



「スティール!!」



ニューヨークの選手達がそう叫んだ。



右バッターのクリスタンテが打席に居て、アウトコースの変化球というのを見切ったのでしょうね。



牽制の意識は低く、それほどのクイックでもなかった。そして昨年は32盗塁を決めた足ですから。


ベース際のスライディングもスピードが落ちず、キャッチャーもいい送球だったがアウトにすることは出来なかった。




3盗成功で得点チャンス拡大。



そして……。




カァーン!!




高く打ち上がった打球。高めのボールにいいアプローチでバットを出していったが、僅かにボールの下を叩いた。



グイーンと高く上がった打球がセンターへ。それがレフトからライトに吹く風に押されて大きく右中間方向に流れた。



センターが回り込みながら打球を掴む。




「「ゴーー!!」」



ベンチにいた全員が叫ぶ。



地面に視線を落としながらバーンズがスタートを切る。



ステップを踏んだセンターがやや高いダイレクト返球。



キャッチャーのミットに吸い込まれるようなドンピシャのボールとなった。



足から滑り込むバーンズ。それにキャッチャーのミットが振り下ろされる。



その衝撃を受け、バランスを崩したバーンズがゴロゴロと転がるようにしながらダメージを逃がした。



ぐっと前のめりになってプレーを見ていた球審が……。



「セイフ、セイーフ!!」



腕を広げた。



やったぁ!と、ゴツい体で可愛く喜びながらアンドリュースとハイタッチしたバーンズが小走りでベンチに帰ってきた。



するとニューヨークベンチのボスが現れてチャレンジ権利を発動。



みんなでシンキングタイムとなった。



盛り上がりムードに水を差された中、1人踊り続けていたのは他ならぬ俺だった。



阿波だったり、ロボットだったり、タコだったりを披露しながら、通訳の黒崎さんの足を見立てながらみんなに解説したのだ。




「いい?ここ、ホームベースね?ボールが返ってきました、バーンズが滑り込みました。キャッチャーがタッチしたのは、バーンズの足首ですねん。ホームベースにつま先が入っていますから。


これがバーンズのスパイクにタッチしていたら、アウトのタイミングだったけど、足首は細くなってるから、その分まだタッチ出来てないからね。つま先がしっかりホームベースに届いていれば………」



と、みんなが注目する中、突然人が変わったようにまた踊り出し、そのままベンチ裏に消えていく。



そして股間に、ブラッドリーが食べたクラッカーの箱があったので、それをぎゅうぎゅうに丸めて股間に詰める。



それはもうチャックが閉まらないくらいに。


その状態でベンチに戻ってきて、エレファントマグナム!エレファントマグナム!と叫びながら、リンボーダンスを始めると、それなりの笑いを生み出した。



今日のベンチには、エレファントなんとかというおもちゃメーカーの広告がありましたのでね。



ちょっとでも可能性を生み出していかないと。




そして、そうこうしている間に、改めてセーフのジャッジがコールされたのだった。



無事追加点。



その後、向こうの中軸の連続ホームランで差を詰められたものの、終盤にもザムが足を生かした走塁で得点を挙げ、逃げ切り成功。



同一カード3連敗はなんとか阻止して、ミルウォーキーと同率首位で並び返し、35試合で21勝16敗。



これぞメジャーという初の11連戦は終わりを告げたのだった。





「新井さん、ここ痛いでしょう?」



「いてえ!!」



「ここも痛いでしょう?」



「いてえっす!」



「ここは痛くないでしょう?」



「スゴーい!痛くなーい!」



「でも、すぐ側のここは1番痛いでしょう?」



「ぎょえっ~!!……ちょっと、あんまり痛くするのは………」



トレーナーの桜井さんである。今日は移動日。ゴールデンウィーク明けのお休みの日。彼を偉そうに自宅に呼び出して、マッサージをしてもらっている。



まるで魔法である。



桜井さんにかかれば、触らずとも、俺の体のどこに疲れが溜まっているのか、どこに負担がかかっているのか分かるらしい。



例えば歩き方とか。平柳君と話をしている時の立ち方とか。チェンジになってクラブを外しながら守備位置から走って戻って来る時とか。



軽く素振りやティーバッティングをしている時の動作や休んでいる時の足の組み方やマットの寝転び方とか。



何なら、朝イチのマンション前の車に集合する時に、おざーすと俺がやって来た時の姿を見た瞬間に、あの辺に疲れが残っているから、今日はこういうストレッチしてやろうと考えたりするらしい。



これはもう経験から来るやつでしょうね。



ドイツワールドカップがあった年にアスレティックトレーナーの免許取れましたと言っていたので、この道20年というわけですか。




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