これがジャパニーズサヨナラスタイルよ。
今は打率2割3分の8番バッターではない存在感を放つロングフォレスト。
相手クローザーが投じたアウトコースのボール。それをややバットの先になりながらも打ち返した。
打球はふらふらっと舞うようにして右中間の浅いところへ。セカンドが下がり、センターライトがチャージする。
そのちょうど真ん中に落ちた。
セカンドとライトの選手が軽く衝突。センターの選手が足元に落ちたボールを拾い内野に返す。
その間に2人のランナーがホームイン。
同点。
5点差が2アウトランナーなしからタイスコア。さっきまで諦めムードだったスタジアムの雰囲気が最高潮。
バッターはザム。
難しい緊急登板。打撃妨害もあり、打ち取った打球がしぶとく外野に落ち同点で尚も1、3塁。
ストライクが入らず、ザムはボール球をしっかりと選んで満塁となった。
ネクストに向かう俺に、おバットは必要なし。
手ブラでネクストの輪っかに向かって平柳君に声を掛ける。
「これはアレをやるパターンのやつだね」
「おっ、さすが新井さん。分かっていますね。後は1発で決められるかどうかですよ」
「そうね。もう強めでいいから。ベースを離れた1塁手に捕らせたらもう頂きよ」
「ははっ!」
俺たちはそんな会話をする。日本語なら気を使わずに話せるからある意味楽だ。
最終回裏、同点2アウト満塁、逃げ場なし。
相手クローザーが実績十分ではあるが、コントロールが格段に優れているタイプではない。
連続フォアボールはあかん。押し出しがよぎる。となると、初球はどうしてもストライクが欲しい。
相手はメジャー1年目の日本人選手。多少甘くなっても、速いボールから入るのは明白に見えた。
「バッター、ヒラヤナギ。どんなボールを狙っていくのか。1打で勝負が決します……。セットポジション。………投げました!バントだ!1塁側へセーフティバント!!
ファーストが出る!!ピッチャーがカバーへ!ヒラヤナギが速いぞ!!………セーフだー!サヨナラ~!ヒラヤナギがテクニカルなバントでゲームオーバー!!シャーロット、大逆転勝利です!!」
もうイメージ通りでしたわね。
ファーストにベースから離れた場所で打球の処理をさせ、ピッチャーがベースカバーに入らなければならない絶妙な加減。
ボールがインフィールドに弾んだ瞬間に、俺も一緒に走り出しましたわ。
1塁を駆け抜けた平柳君が振り返ってガッツポーズした瞬間に、俺が飛びかかる。
2人で抱き合っているところに、バーンズやクリスタンテといった超メジャー級の選手が、子供のように笑顔を弾けさせてハグワーク。
明日の1面はこれで決まり。
連敗したミルウォーキーに代わって、シャーロットが30試合以降では、実に6年ぶりとなる単独首位に立った瞬間であった。
しかし、首位に立っただけではあかんですわよね。
そこからさらに勝ち星を重ねて首位をキープしていかないと。
と、意識してしまうと、それまでの戦い方が出来なくなってしまうのがシーズンスポーツの難しいところ。
開幕から1ヶ月ちょっと。各チームのいいとこ悪いとこ。計算通り、計算外。はたまた計算以上。上位と下位で少しずつゲーム差が開いてきた。
シャーロットウイングスも先週末から10連戦がスタートしており、前半戦の山場に差し掛かったところで、ノースカロライナの気候と同じように、打線がちょっと湿り気を増してしまっていた。
5月頭まで、3割打者が5人いた活発具合が嘘のよう。
アンドリュース、ブラッドリー、クリスタンテ、バーンズと、打順が下から不振ウイルスが蔓延。
平柳君と俺でチャンスメイクしても、なかなか得点に結び付かないという状況が続いていた。
そうなった時に、チームを勝利に導くことが出来るのがエースという存在である。
スコット・ウェブ。右投げ右打ち。オクラホマ出身の30歳。メジャー通算7年で60勝というピッチャー。60勝するまでに90敗を喫してはしまったが、シャーロットは過去7年でシーズン100敗が2回あったチーム。
そんな時も含めて、デビューからローテーションピッチャーとして、シャーロットの屋形骨を必死に支えてきた男である。
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