みのりんもみのりんでおケツを引っ込めることはしませんでしたわね。
「アライサン、すごい執念ですね。これもヤマトダマシイというやつでしょうか」
「こういうマインドがシャーロットには必要かもしれませんね。たった1つの出塁かもしれませんが、積み重ねですからね。」
バキッ!!
高めの速いボール。バーンズのバットは真っ二つにへし折られてしまったが、打球はセカンド後方へ。
帽子を落としながらセカンドが下がり、センターも突っ込んでくるが、その間にポトリと落ちた。
2アウト1、3塁となって、4番クリスタンテ。
彼のバットからようやく快音。打球はサードショートが1歩も動けない痛烈なゴロとなってレフト前ヒット。
シャーロットが1点を返した。
5番ブラッドリーは、変化球をしっかり我慢してカウントを有利にし、真ん中の変化球を打ち損じてファウルにしてしまったが、フルカウントからフォアボールを選んだ。
4点差。2アウト満塁。俺のお笑いデッドボールまで余裕のあった敵さんの雲行きが怪しくなる。
「バティシックス、アンドリュース!!」
左投げ左打ち。両腕にブルーの長いリストバンドをはめた長身男がバッターボックスへ。
1発が出ればもちろん同点になる状況。強引に引っ張っていくバッティングに賭けると思いきや、外のボールを逆らわずに逆方向へ打ち返した。
「アンドリュース打ちました!サードの横!………捕れません!捕れません!打球はレフトへ!3塁ランナーに続いて、2塁ランナーのクリスタンテも返ってきます!2点差!シャーロット、猛追!サード、フェルナンデスがバウンドを合わせきれませんでした!」
「ちょうど芝生とアンツーカーの境目。ボールがバウンドしてきませんでした。フェルナンデスはなんとかグラブで押さえにいきましたが間に合わず、シャーロットにとっては非常にラッキーな出来事ですよ」
「オッケー、オッケー!」
「ナイス、ナイス!バーンズ!……ウェーイ!」
アンドリュースの打球はレフト前のタイムリー。俺と平柳君は飛び上がって喜びながら、ホームインしたランナー、そしてピンチランナーを出されて1塁から帰ってきたアンドリュースを出迎える。
「やるね!流し打ちとは珍しい。魔法でも使ったのかい?」
「俺もアライサンのように4割打ってみたいからね。次に打席が回って来たらお手本を見せてくれよ。デッドボールじゃなくてね」
「言ったな!このこの!……平柳君、どさくさ紛れにおケツを触るな!」
「チッ!」
ピッチャーが代わった。経験を積ませたいと思われし若いピッチャーから、クローザーへとスイッチ。
タトゥーゴリゴリの右腕がマウンドに上がり、ビシバシとピッチング練習を行っている。
1塁ランナーを返せば同点になってしまう場面。2アウトとはいえ、緊急登板ならばチャンスがあるのではと、俺は平柳君と抱き合うようにしながらグラウンドを見つめていた。
「バティセブン、サードベースマン。ヒックス!!」
走攻守。バランスのいい25歳の3塁手。今シーズンはここまで、打率2割6分、ホームラン2本、打点10、盗塁3と全てにおいてまあまあの成績。
しかし今必要なのは安定感のあるプレーよりも、クローザーの投げた1球を仕留めるヒーローレベルの決定力。
打つならファーストストライク。それはヒックスも当然分かっていて、インコース寄りのツーシームを積極的にスイングしていった。
ビュッ!
ビッ!
カン!
「ショート正面のゴロだ!丁寧に捕球して、セカンドにトスして3アウト。シャーロット、最終回反撃に移りましたが、ここまででした」
ショートド正面のゴロ。2塁がフォースアウトとなり、セカンドとショートは空中で体をぶつけ合って喜び、1球セーブのクローザーはキスした指を軽く空に向けた。
そんな中………。
「インターフェア!!」
球審がそう叫んだ。
そして決め顔で3つの塁を順番に指差す。
「テイクワンベース!!」
ベンチに戻ろうとしたランナーは進塁し、打ったヒックスもベンチの方を確認しながら1塁ベースに向かっていった。
球審おじさんがバックネットに向かい、マイクを握って、観客に向けての説明を始める。
打撃妨害。
スイングしたバットにキャッチャーミットが触れていたと。そういうことですわね。
前に住んでいた狭いマンションで、洗濯機から衣類を回収していたみのりんの狭くなった背後を歯磨きしながらの横歩きで通った時に当たった場合は、何妨害になりますの?
ともかく、ゲームセットが1マス戻るで2アウト満塁ですから、クローザーを投入したとはいえ、まただいぶ話は変わる。
ピッチングコーチが小走りでマウンドに向かい、内野陣も集まる。申し訳なさそうにするキャッチャーをみんなで宥める。
バッターは8番キャッチャーのロンギーですから、得意な球種やコースを含めての相談。
そして散っていく。
2アウト満塁。同点のランナーが2塁。
外野の間を破られたら一気にサヨナラですから、当然長打警戒の守備体形になる。
初球。そんなわけで、まずは低めの変化球。高さを間違えることが出来ない状況で、ホームベースを過ぎたところでワンバンさせるボールだった。
子だくさんの家庭を作り出した黒光りしたバット。それをロンギーは振り出すことはしなかった。
目付けをベルトよりも高い位置に置き、それより下の球はストライクにはならないだろうという読み。
もうメジャー10年目になるレギュラーキャッチャーの確かな読み。
チーム防御率リーグ1位の投手陣を牽引する凄みのようなものはそこにはあった。
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