喰ってやる
鈴乱
第1話
『あぁ……』
ガラス張りの巨大な窓から、光る街を見下ろして、感嘆の声が漏れる。
眼下に広がる世界で、今日も人間が蠢いている。
悲喜こもごものドラマを演じながら、生きたり、死んだり、忙しない。
『あぁ……なんて愛おしい』
彼らは何も知らないで生きている。
何も気づかず、何も知らず、何も知ろうとしないままに、命を動かす。
『これだから、馬鹿は……愛しいんだ』
馬鹿で愚鈍な世界と、そうと知らずに生きる人間。
この世が愚かな演劇だと薄々分かっていながら、それに甘んじている人間。
正しくあることだけが、いつでも正義だと思って潰されていく人間……。
それがすべて、大いなるものの仕組んだ手のひらの上などとは、思いもしない。
よそ者の仕組んだ舞台の上に縛られているだけだと気づきもしない。
『あぁ……たまらない』
彼らをつまみに飲む酒の美味たるや、至上というほかない。
『愚かで愚かで、私の張った罠にも気づかない』
今更、気づいたって遅いのだ。
残念だが、世界は正直モノに笑いかけるようには出来ていない。
世界は、世界を尊んだものに、力を与えるように出来ているのだ。
世界にとって、正しくある者に力を与えるようにできている。
世界の原理原則に従った生を生きる者をことの外、愛する。
平等だなどと、誰が言ったか。
この世は不平等だ。不平等でなくてはならない。
その不平等こそ、人を平等へと駆り立てる動機となる。辛さと痛みが、人をより高みへと連れていく導となる。
痛みがあるから、高みがあるのだ。
だから、私はここで静かに佇んでいる。
これ以上の先はない、高みから。
人間たちよ、上がってこい。
当たり前など捨て去って、私のいるここまで必死に上がってくるがいい。
ここにきて素晴らしい光景を眺めながら、より素晴らしい世界を創るために語り合おうではないか。
夢を見て、語って、面白がっていこう。
大勢で、まだ見ぬ素晴らしい世界を描こうではないか。
1人の夢想からすべては始まり、それが広がって大勢の願いとなり、夢想は現実化へと歩みを進める。
壮大な夢想が現実になるさまを、今ここから始めて、その行く末を共に見届けようではないか。
誰ひとり取りこぼさない世界へと。
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