第2話 転生?
「何これ…。」
少年…いや、少女は驚愕した。
鏡の前で顔をペタペタ触る。
(誰…!?いや…私…!?でも全然顔が違う…。)
少女はブロンドの髪を掬い上げた。
「何この髪の色…。全然私のと違うじゃない…。」
元の髪色は黒だったのに、いつの間にこのような色に変わってしまったのだろうか?
「え…?ていうか今私…。」
(“私”って言った…?)
カロリーヌは、自分がスラスラと喋れていることよりもそこが気になった。
―コンコン!
「ひゃい!?」
「カロリーヌ様、開けてもよろしいでしょうか?」
(どうしよう思わず上擦っちゃった…。)
カロリーヌは慌てた。
(“カロリーヌ”…。どこかで聞いたような…。)
何者かはカロリーヌの返事も待たずに扉を開けた。
「そろそろお時間でございます。」
そこには、いかにも仕事ができそうな執事が立っていたのである。
執事は綺麗にお辞儀し、片手を体の前に持ってきている。
(え、誰…?)
カロリーヌには見覚えがなかった。
「あの…。」
カロリーヌがそれについて質問しようとした時に、
「ハイハイ!お嬢様さっさと行きますよ!」
「王子様を待たせちゃ大変ですからね!」
どこからともなくオバサン達が現れ、カロリーヌはあれよあれよという間に部屋を押し出されてしまう。
「あ…あの…!“時間”ってなんですか…!?“王子様”って…!?」
(そして貴方達は誰なんですか…!?)
カロリーヌはこれらの疑問に全て答えてもらいたかったが、それはオバサン達の大きな声に搔き消されてしまう。
「何を仰いますか!これから結婚式があるんでしょう!?」
(“結婚”!!?)
カロリーヌは驚愕した。
キビキビとしたオバサン達に連れられ、カロリーヌは初めて見る大広間へと案内された。
執事はただ後をついてくるのみである。
(何ここ…!?)
まるで中世を思わせるような豪奢なその空間に、カロリーヌは圧巻された。
見渡す限り金の煌びやかな装飾が施されている。
(目がチカチカする…。)
カロリーヌは思わず目を細めた。
手で日差しを避けるように目を隠していると、目の前の階段から誰かが下りてくる。
(……?)
こげ茶色のブーツに白いピチッとしたスーツパンツのようなボトムスを履いた人物が、こちらに向かって歩いてくる。
「カロリーヌ。」
その声は深く澄み渡っていて、聞いていてとても心地が良かった。
(誰…?)
カロリーヌは恐る恐る顔を上げる。
そこには、銀色の髪をした王子様がいた。
「あ!」
カロリーヌは思わず声を上げてしまった。
王子は気にしない。
(“シルバー”!)
“シルバー”とは、少年が父親に馬鹿にされた絵の中に描かれていた登場人物である。
髪の毛の色が銀色だから“シルバー”と、安直なネーミングセンスだ。
「シルバー様、カロリーヌお嬢様は今少々混乱しておりまして…。」
「分かっている。急に決まった話だからな。」
シルバーはこれ見よがしに懐の広い所を見せつけてくる。
(そうだ、そうだ…!“カロリーヌ”もその絵の中に描いてたんだった…!!)
カロリーヌはそのことを思い出していた。
確か、絵の中央にはカロリーヌがいて、その横にはシルバー、そして、その周りに執事やら何やらを描いていたのだということを。
(でも、なんでそれが今目の前に…!?あんなの頭の中で想像してただけなのに!!!)
カロリーヌは頭を抱えた。
「カロリーヌ、大丈夫か?」
王子が心配そうにカロリーヌへと手を差し伸べてくる。
その手を、カロリーヌは取ることができなかった。
(なんでだろう…。なんで、こんなことになっちゃったんだろう…。)
―気持ち悪い。
カロリーヌが真っ先に思ったことはそれだった。
嬉しいでも楽しいでもなく。
少年は、あくまで“理想”としてこの絵を描いていたのだ。
男でも女でもいい。
ただ、自分とは真逆の存在を想像して幸せを噛み締めるつもりで妄想を膨らませていただけなのに。
それが今現実となっていることで、少年としての心は、自分がどうしたらいいのかが分からなかった。
だから…。
「あ!カロリーヌ!!」
カロリーヌは逃げ出した。
周りのどよめきなど気にせず、ただひたすらドレスの裾を持って走り続けた。
そして扉を両手で開ける。
目の前には、これまた中世を思わせるような(と言っても、少年の脳では貧困な想像しかできないが)美しい庭園風景が広がっていた。
家から門までは離れた所にあり、そこには馬車が止まっている。
カロリーヌはそこへ向けて全力疾走で走った。
「走って!」
馬車へ乗るなり、カロリーヌは御者へ命令した。
「え?」
御者は何が起きたのか分からない、というような顔をしている。
「いいから出て!早く!!」
カロリーヌが大声で命令すると、何かは分からないまま御者はとりあえず馬車を走らせ始めた。
彼女が窓から覗くと、シルバー達が庭園に出ており、こちらを呆然と見つめている。
その様子を、カロリーヌも馬車の中からじっと見つめていた。
「ふぅ…。」
暫く走った所で、カロリーヌは座席にもたれかかり溜息を吐いた。
「あの、お嬢さんどこへ…?」
御者が恐る恐る聞いてくる。
カロリーヌにもどこへ行けばいいのかなんて分からなかった。
ただとりあえず、自分でも知っていそうな単語を放つ。
「首都へ。」
これが少年の知識なのか、もしくは“カロリーヌ”という少女が持っている知識〈もの〉なのかは分からない。
ただ一つ言えることは、これがカロリーヌの最初の逃亡劇だった、ということである。
Miroir 羊狩り @liar_shepherd
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