いかにもな手紙にはとても綺麗な字で

‘運命の美しい人京子ちゃん　すぐにまた逢おう　必ず迎えにいくよ　次はもっとたくさん戦えるといいな　芥玄‘

　と記してあった。

「「気色悪。」」

　口を揃えてこぼす。皆にすべてに無頓着と話したが、何故か目をつけられてしまったのか。

　誰かに見張られている感覚はない。とすると猫たちのことを調べ上げて接触しているということだ。

「うちの子をいいように使わないでもらいたいね。」

　喉を鳴らした白猫はとても優秀だ。

　この怪文書が届いてから3日後の深夜、やっと睡眠をとれると署内の自室に用意してもらった布団に横たわる。

　町に降りては署に呼び戻され、署に戻れば町に呼び戻されるの繰り返し。人の為になっていることは嫌じゃないが、やっぱりこういうのには向いてない。代えられる暇も与えられなかった灰皿にはあふれんばかりの吸い殻が積みあがる。

　朱現くんたちは巴さんの道場に纏まって待機してもらっている。一くんと永倉さんは同じく署で寝泊りだ。胡蝶ちゃんとるかくんは湯屋の方についてくれている。

　皆、大変な状況なんだ。仕方ない、と戸締まりを確認して仮眠を取ろうとする。

　その時こつん、と窓が呼ぶ。視線を向けると、そこには八朔がいた。

「…災厄だ。」

　嫌な気配はないので、ゆっくり上体を起こし、刀を手に取る。私は、眠い。窓を開くと、そのまま手を取られ、なんでか空を飛んだ。

　細い糸のようなもので上に吊り下げられる。屋根につくとおろされ、されるがまま座ってみる。

「眠い。今すぐ寝たいかなり。で、何の用。今斬りあうのは御免だよ。京だって人間だから、できるときとそうじゃないときがある。」

　満面の笑みを浮かべる八朔は手を離す。

「顔を見に来ただけですよ。この時間なら邪魔が入らないかと思いまして。」

　寝たい。

　こんなにも警戒心を解いてしまっているのはこの独特の雰囲気と眠気か。匂いに例えるのならば無臭。そこにあるようなないような。

「この前も聞いたけど、なんで京を殺さない？なんの目的がある？」

　重い腰を上げる。

「貴方が気に入ったので、会いに来ただけです。以前、目的はないと言いましたが丁度できてしまいまして。また、次の機会にお話ししましょう。」

　意味深長な回答を残し私の前に立つ。じっと目線を重ねる。身を翻した八朔は夜空に姿を溶かした。満天の星の一つにでもなっていてくれ。

　まいいか。寝よう。明日はあの人がくる。屋根の上に大の字になる。肺の煙と共につぶやきがぼやける。

「恨んでなんか、ないんだから。」