「ずっと、何にも興味がなさそうだったの。人斬りの意味もないって言ってた。下に優秀な統率者がいて、その仲間に元隊士がいるのかも。」

　私の考えはこう。つまり、放火犯は八朔でありつつ八朔ではない。八朔の行動を拡大解釈しているのか、強さにほれ込んでいるのかは分からないが、少なくともかばって死んでいったあの男にとってはそれに値する人物だった。でも、当の本人は逃がそうとしてもらっていたとき不満げだった。この考えだと、それにも合点がいく。

「まあ、八朔に味方しているのか、八朔が味方しているのかは不明だけどね。会ってみて、放火指示は八朔じゃない気がした。」

　無頓着そうな八朔が遺体を持ち去ったとも考えにくい。指示した別の者がいると考えて間違いないだろう。

　ここで一度話を終わらせ、町の様子を見ようと再び肩に乗った時、一人に声をかけられた。人が慌ただしく行きかう往来の途中。

「八朔はいかがでしたか。」

　異変に気付き、一くんと朱現くんが前にでる。巴さんと永倉さんもるかくんと私を守れる位置についてくれた。るかくんに担がれたまま警戒を強める。

「…八朔の仲間か？」

　一くんが尋ねると、永倉さんの表情が変わった。

「お前、中込か！」

　呼ばれた男は二人の元組長の前で深々礼をした。察するにおそらく元隊士だ。気まずくも申し訳なくも思わないが、男から発せられる異様な殺気に心がざらつく。が、そこで引く私ではない。

「知らないお兄さん。何の用。」

「おい、やめとけって。」

　るかくんが見つめてくる。挑発交じりの言い方をするなと言いたいのだろう。だって、私の知ってる新選組はこんなじゃない。もっと＿。

　中込は頭を下げたまま続けた。

「私が、八朔に情報を流し姫崎京子を襲わせ、放火を指示しました。」

　淡々とそう告げる中込は一つも動かなかった。ここだけ、時間が止まったような感覚に襲われる。予想が当たっていたのか。

「るかくん、降りるよ。」

　飛び降り、近寄るが顔を上げ鋭くにらみつけられ思わず立ち止まる。

「…喧嘩なら買うけど。」

　二人でぴりつく。が、仕方なく折れてあげた。ここは人が多すぎる。これ以上巻き込みたくはない。煙草煙草。

　それだけ言いに来たらしい。もう一度礼をし、そのまま人込みに消えていく。ここでは私たちが手を出せないと見込んでの行動だ。

　組長らは複雑な顔だ。志を共にした仲間にこんなことをされては。中込を士と認めることなどないけど。あんなやつと一くんが一緒なんて嫌だ。

「気にしない。永倉さんが見たのはあいつの仲間かな。」

　中込から八朔の名が出たことにより、関係が明らかになった。頭の中がごたついている。今すぐ対応が決められない。深夜から動いている疲労も覆いかぶさってきた。

　ひとまず、場を〆ることにした。

「とりあえず、みんな生きててよかったよ。」

　普通に歩く分にはなんも問題ない足で、一度署に向かう。

　一くんと確認事項を共有した。

「まず、放火の方法ね。爆発音を聞いたから、単に火をつけたんじゃないと思う。この火災に乗じた犯罪の確認と取り締まりもする。被害の全容を把握して避難所も開設する必要があるからその手伝いもしたい。後とは八朔の消息を辿れれば万々歳かな。」

　既にしろちゃんくろちゃんとは合流できている。どちらにも火災の被害はなかった。剣には連絡を飛ばし、返事を待っている。

　署につくと有馬と会うことができた。朱現くんたちを休憩室へ案内させ、一くんと自室に戻る。身支度を整えたり、対応の相談をしていると署長が訪ねてきた為、ざっくりと今まであったことを説明した。

「委細承知した。この件に関してはお前たちに指揮を任せる。八朔関連もだ。政府には私から連絡を取る。」

　署長の計らいは悪くとも良かった。そちらの方が動きやすい。早速長谷部も交えて対応を詰める。

　これで基本方針は落ち着き、署内に伝達が回った。警官が周知すれば広まるのは早いだろう。

　外に出ると、警官が集まっていた。姫崎には若くして人望もあった。

「何があろうと、全力で国民と君たちを命を懸けて守ることを誓おう。」

　四大の話はほとんどの人間が知らない。姫崎京子が《姫》であることを知っている人間はさらに少ない。この町が狙われた原因を招いたかもしれない人間である事実はは、姫崎を苦しめた。しかし、彼女は止まらない。