第18話 灰の中

 煙幕が晴れ、八朔の逃走を確認する。仁王立ちで思いっきり溜息をついた。二人も参ったような顔。

「ちょっと一くん、あの人殺す気でやんないと逃げちゃうよ。」

「こいつに合わせてやったんだよ。この甘ちゃんに。」

「分かったごめん。喧嘩になるからやめよう。そんな場合じゃない。」

 一服つける。分かったことは、思っていた以上にできる。これは手加減していては解決に至らない。そして体術に長けた動き。その割の剣術のおろそかさ。得体のしれない言動。

「気合、いれてよね。」


 剣や戦闘に参加しなかったるかくん、巴さん、永倉さんが主導となり、ほぼ鎮火は済んでいた。杉村家、至家と林檎ちゃんが救護にあたっており、心強い。


 子供に好かれやすい三人と指揮二人に分かれ動いていた剣。真木が探してくれており、姿を見るやいなや救護拠点に三人引っ張られた。一名は負傷あり。二名は大した怪我はないものの、煤やら灰やらで汚れていた。


 救護拠点には人が溢れかえってはいたものの、重傷者は多くなかった。しかし被害は老若男女問わずに及んでおり、痛ましい。小さな少女の顔に火傷があるのを見つけ、屈みこむ。

「ごめんね、痛かったよね。」

 顔に手を添えながらそう言うことしかできなかった。


「真木、京たち後回しで良いよ。自分たちで何とかする。着替え、ある?」

 それぞれに差し出される着物と簡単な手当の道具。懐から数時間前に使ったばかりの蝶の軟膏も取り出す。

「そういうとこ、好きだよ。ありがとう。残党がいた場合の処遇は任せる。」

 一礼し真木が立ち去る。剣なら残党らは警官に協力を仰ぎ捕縛に動くはずだ。どちらでもいいが、情報源が欲しい。まだ、欠片しか知らないような感覚がある。


 よくみるとここは湯屋らしい。しかも温泉!至の助手を名乗るお姉さんに案内される。湯屋の周辺は町衆によって優先的に消化がされたことを教えてくれた。町の人らには謝りきれない迷惑をかけてしまった。

 手の傷思いっきり開いた為、申し訳なく思ったがお姉さんに手伝ってもらうことになった。仕切りを置いてくれたので、二手に分かれ汚れを落とす。簡単に傷薬を塗ってもらい包帯を巻いて着替え、一期は髪紐もくれたので、髪をくくる。私と朱現くんは救護の手伝いに向かった。一くんには巴さんとるかくんの様子を見に行ってもらう。


 胡蝶ちゃんと合流し、指示を受け動く。軽症者を診ていたようだ。ある程度の心得はある二人の為、円滑に作業に入ることができた。痛さに泣く子供を見ていると過去の私に重なるのが辛い。手当が済み、皆ありがとうと言うが、ごめんなさいという言葉しか出てこなかった。

 医家の人手の力が大きく、一時間程度であらかたの手当てが終わった。巴さんとるかくん、永倉さんの軽傷も診てもらえ、最後におずおずと私の手を見せると拳骨が落ちた。それでも胡蝶ちゃんはそれ以上怒らなかった。

「こんなのは薬じゃ治らないよ。」

 そういい少し縫ってくれた。


 重傷者は杉村家の大お姉さん、永倉さんの奥さんが診ていたようで、そちらに顔を出す、と胡蝶ちゃんと林檎ちゃんは手を振る。


 私たちは外にでて、《芥》に関する情報と今回の放火に関して共有することにした。永倉さんがすぐに口を開く。

「…元新選組隊士が関わっている。この件に。」


事態はさらなる混迷へ進む。

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