異世界機兵BL

九重土生

第1話 転生、知ってる天井


「おお、母さんこいつもう目を開けたぞ!」


 整った顔立ちの男が表情を崩してこちらを見つめている。


 身体の自由がきかない……いや、手足は短いし上手く力が入らない。


「そうですねクラヴィル、この子ったら手を握ったり開いたりして可愛らしいわね」


 反対側には少し厳しそうな顔をした、シルバーフレームの眼鏡をかけた壮年の女性が一人。


 おそらく父と祖母だろう人が俺をみて一喜一憂している、そして俺を抱きしめているのは母だろうか。


 父親がこれだけイケメンなのだから母親もさぞ美人だろう……そう思ってまだ座らない首で必死に見上げる。


 そこには、髭があった。

 じょり。

 間違い無い、ヒゲだ。


「あらぁ自分から顔を上げて私を見たわクラヴィー!?」


 なんだこの野太い声は!?

 そこに居たのは、まごう事なきおと、いや漢女(ヲトメ)だった。


「ふふ、俺──わたしがあなたのお母さんよ、ライオネル!」



 ビシィ!!、と空間が割れた気がした。


****



「なぁんでだよあぁあぁ!?」


 真っ白な天井、飾り気のない部屋の内装が目に映る──そうだ、ここは軍の宿舎……身体だって赤子じゃなく18歳の見慣れた姿だ。


 そう、ここはファーガイア。


 3つの小太陽と七つの月を空に浮かべるまごう事なき異世界にして、魔導工学が発達し、魔導機文明が入り乱れ争うファンタジー&バイオレンスな場所だ。


 悪夢に飛び起きたわけだが夢の様な事実はなく、俺は赤子ではないし母は美しい女性。因みに先程の悪夢に出てきたのは当たり前だが母では無い、叔父である。


 だと言うのに俺がこんな夢を見たのは理由がある。


 軍の宿舎には当然だがほぼ男しかいない。

 齢18歳、この世界では成人とは言えまだまだ盛んな歳頃にこの環境はキツイものがある。


「女の子とイチャイチャしたいなんて欲求を持つ日が来るとは……」


 ──宿舎の窓から見える空はまだ白み始めたばかり、太陽光が差し始めた中、この地方では早朝や夕暮れによくかかる霧にけぶる様は幻想的だ。


「美しい、と素直に思うんだけどなぁ」


 そう、あんな物が並んでいなければ。


 霧の中、空気中の水分に乱反射した陽光をさらに弾く影が7つ。


「子供の頃なら純粋にかっこいいなんて思えたのかもしらんけど」


 片膝をつく格好で停止する鋼の巨人──


「美しい、ええ美しいですとも、我が国が誇る魔道兵……タイタニアは!!」


 ──を見て大興奮するルームメイト兼砲撃主役の我が相方。


 幼なげで中性的な横顔だけを見ているとまるで女の子みたいだが……ここには女の子はいない筈だ。


「ほら、見てくださいよぅライオネル様ッ黒鋼に太陽光が反射してまるでアダマンタイトみたいな色艶に見えて最高ですよ!?」


 なんか軍事オタクの男子高校生みたいなこと言いだしたが見た目はまるっきり女子で脳が!脳がバグりそうです!!


「………どうしました?」


 きょとん、と可愛らしい表情で小首を傾げる相方。


「リリアン・グレーハウンド!!」


「は、はい!?」


「朝から気が緩みっぱなしのその気概、叩きなおしにグラウンド20周して来い!!」


 理不尽だが、唐突な上官ムーヴで相方に叫ぶように命じる。


「ハイッ、喜んで!!」


 と、何故だかにこやかに敬礼を返して部屋の隅のクローゼットからジャージを取り出し隠れるようにトイレで着替えた後、リリアンは猛スピードで出て行った。


 良かった、これで内股気味の無様を晒しても誰にも見られない。


「……落ち着け、俺の俺ッ!──アレは男だと言うのにィィィ!?」


 一人の男の尊厳を保つための魂からの叫びがこだました。


 そうだ、ここギアード皇国東部辺境伯領──皇国新兵養成所にて俺の物語は始まったのだ、ちょっとだけ情け無い格好で。

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2025年12月26日 12:00
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2025年12月28日 12:00

異世界機兵BL 九重土生 @gilth

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