蓑虫の恋〜囚われの花嫁は鬼に愛される〜
遊井そわ香
序章
第1話 蓑虫。いとあわれなり
清少納言『枕草子』四十三段より抜粋
蓑虫。いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれも恐ろしき心あらむとて、親のあやしき衣ひき着せて、「今、秋風吹かむをりぞ来むとする。待てよ」と言い置きて、逃げて去にけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ」と、はかなげに鳴く、いみじうあはれなり。
鬼の子は「秋風が吹く頃、戻ってくるから、ここで待っていろ」との親の言葉を信じて、「父よ、父よ」と泣きながら、待ち続けた。
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