第14話 驀進のイヴァエ
「『
戦斧はリアを粉微塵にし、フティアフを直撃した。
衝撃の余波はフティアフの背後にある建物を根こそぎ吹き飛ばした。嵐の如き強風が吹き荒れ、数十軒分の瓦礫が空高く舞い上がった。
瓦礫は隕石のように町に降り注ぎ、避難者に凄惨な二次被害をもたらした。最長で3キロメートルも離れた位置に落ちた瓦礫もあり、下敷きとなった者は軽く100人を超えた。
粉塵が晴れると、辺り一面は更地になっていた。
更地の中心に立つフティアフはしかし、殺風景になる前にいた場所から一歩も動いていなかった。その証拠に彼が立っていたレンガだけが、靴底の輪郭をなぞり無傷で残っていた。
「……初めまして」
フティアフは吹き飛ばされた町を見向くことなく、眼前にいる4メートルもの巨躯を仰いだ。
「私は金騎士フティアフ。あなたの懺悔を聞かせて下さい、イヴァエ」
「……」
イヴァエは刃が砕けた戦斧を捨て、背負っていた大剣を抜いた。自身の体よりも大きく、分厚い剣だった。その大剣の重量が100キロや200キロできかないことは、想像に難くない。イヴァエが大剣を構えると、彼の足は地面に深く沈んだ。
イヴァエは息を荒げながらも、辛うじて理性を保っていた。目の前にいる男を殺したい衝動をなんとか堪え、彼は話した。
「我が名はイヴァエ。魔王軍潰葬隊隊長『驀進のイヴァエ』」
「存じております。さあ、懺悔を」
「『無傷の神父』フティアフよ。魔王軍四天王が一人……
「ええ、覚えています。それは懺悔ですか?」
「……エスロは吾輩の友だ」
「そうでしたか」
フティアフの態度は陽気とも言えるものだった。
「では、良かったですね」
「……なに?」
「どうかご安心なさって下さい」
心からイヴァエを気遣っているかのように、真摯な物言いだった。フティアフはしみじみと胸に手を当てた。
「彼は今、天国にいます」
「……」
イヴァエの視界に、バチリと稲妻が瞬いた。
「……はァ?」
「彼は数々の罪を重ねました。四天王とまで呼ばれ、数え切れないほどの町を滅ぼし命を奪った。彼がこの世に生んだ悲劇の数々を思えば、無事に神に迎えられるか疑問を抱くのも無理はないでしょう」
「何を、言っている?」
「ですが、先程も言ったように……彼は天国へ逝きました。彼は懺悔し、私は赦した。贖罪を果たすことで、あなた方は天国へと逝けるのです。魔物であろうと、例外ではありません」
抱擁を求めるように、フティアフは両手を広げた。
「さあ、イヴァエ。あなたも懺悔なさい。あなたの全てを、私が赦して差し上げます」
「――」
老兵は自ら理性を手放し、この神父の一生より遥かに長い1500年の生涯を経て鍛えた肉体と、磨き上げた技、そして燃え滾る魂に殺意を預けた。
「 餓 鬼 が 」
イヴァエは全身全霊の膂力と魔力を大剣に込め、フティアフに斬りかかった。
絞葬隊隊長『賊虐卿』グニクは、口をへの字に曲げて不満を垂れた。
「おいおい、抜け道って下水道のことかよ」
「はい。住人の緊急避難路にもなっています。開放するのは、都市が崩壊するほどの危機が起きた時のみですが」
「はぁ~つっかえねぇなぁ。銅騎士のくせに」
銅騎士ドレーブはグニクの『
人格そのものに命令を下したある種の洗脳状態にあり、今のドレーブはグニクが望めば喜んで靴も舐めた。尊厳を保ったまま死ねた点では、ドレーブの部下たちの方がまだ幸せだったかもしれない。
グニクはドレーブが自信満々に紹介したマンホールの中を覗いてみた。大都市と呼ばれるだけあり、上等なインフラだ。しかし人口が多いということは、それだけインフラが利用される機会が多いということ。折角優雅に『聖剣十字』を手に入れたというのに、糞まみれになって帰ったのでは格好がつかない。
グニクはやれやれと手を振った。
「もういいや、『下水でも飲んでろ』」
「ハ! 只今!」
ドレーブは綺麗なフォームでマンホールにダイブした。
グニクは通りへ出た。避難は進んでいるが、まだ逃げ遅れた住人がいるらしく、聖騎士があちこちを忙しく走り回っている。彼らの目を掻いくぐって町を出るのは骨が折れそうだ。
「……面倒くせぇな。金騎士が出て来た所為で滅茶苦茶だぜ」
元はと言えば、こんなふざけた試煉を思いついた魔王親衛隊の所為でもある。聖騎士団にちょっかいをかければ、こういう事態になるのは目に見えていたことだ。
「マジで……俺が四天王になったら……覚えてろよあの豹野郎」
フードを被り人間のふりをして歩きながら、グニクは真面目に考えた。
(さっきから
歩いた先に、先程とは別のマンホールがあった。
(……下水道に『綺麗になれ』って命令したら綺麗になるかな。範囲がデケェし、無駄に疲れそうだな。それにどっかで下水飲んでる銅騎士と鉢合わせするんだろ? イヤだなぁ)
ここは堅実に隠密行動に徹した方が良さそうだ。聖騎士に見つかったら『
(俺の魔法がありゃ、なんとかなるか。金騎士にさえ遭わなきゃ、どうとでも――)
マンホールをスルーして進んだ曲がり角の先に、鎧騎士が立っていた。
一番に目についたのは、胸にある金色のシンボル、
「こんにちは、『賊虐卿』グニク」
ではなく、その騎士が手に提げていた大きな生首だった。
グニクは表情を変えず、口だけをぱかっと開いた。
「……マジかよ、旦那」
騎士の手から落ちたその首が、グニクの足元まで転がって来る。酷く殴られたらしく半面が原型を留めないほど損壊していたが、もう半面は比較的無事だったので人相を判別できた。
その顔は、潰葬隊隊長『驀進のイヴァエ』に相違なかった。
「あなたの懺悔を聞かせて下さい」
『無傷の神父』フティアフは、グニクに手を差し伸べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます