12 スフィアと約束したにゃん。

【殺す、殺す、殺してやる…】


「くっ…スフィア!落ち着くにゃん!」


背中に黒い翼、赤い瞳、完全に別人と化しているスフィアはまるで力をコントロール出来ず錯乱しているのか、手に持っている大鎌で容赦なく攻撃してきていて、それをニーナはなんとか躱しながら必死になだめようとした!


【殺してやる!】


「しっかりするにゃん!私はニーナにゃん!」


【ニーナ…?】


スフィアの動きが止まった。


「思い出してくれたかにゃん…?」


【グッグァァ!?】


「スフィア!」


するとスフィアは頭を抱えて、何かと葛藤するように苦しい表情をしだしたにゃん!


「ハァハァ…ニーナ…お姉…さん…」


「そうだにゃん、私はニーナだにゃん!

さぁ、一緒に宿に帰ろう…?アンナちゃんも心配してるから…」


【グッグァァ!?】


「スフィア…?」


【人間ごときが私の名前を気安く呼ぶな!!】


「ぐぁっ!」


スフィアの放ったとてつもない邪悪なオーラでニーナは吹き飛ばされた!


「痛たた…一体、何が起きたのにゃ…」


【くたばれ!】


「ぐわっ!!」


ニーナはスフィアに首を掴まれて

勢いよく地面に叩きつけられた!!


「ス…スフ…ィア…」


【ハァハァ…お前など、締め殺してやる…】


「アッ…アアッ…」

(だ…めだ…にゃん…意識…もう…)


【もう少しだ…】


『お願い、もうやめてぇ!!』


【はっ!!】


自分の心の叫びに動揺して、首を絞めるのをやめた。


「ガハッ…ゴホッ…スフィア…?」


そして邪悪なオーラと背中の黒い翼が消えて、赤くなっていた瞳も元に戻った。


「わっ私…」


「ハァハァ…よかった…いつものスフィアに戻れたみたいにゃね…」


「ニーナお姉さんに…なんてひどいことを…」


「私はだいじょうぶだから…」


混乱するスフィアをニーナは抱きしめて落ち着かせた。


「こっこれじゃ私…本当の怪物だよ…」


「スフィアは化物なんかじゃないにゃん。」


「どう考えても…化け物だよ…

 あの時、本気で…ニーナお姉さんを絞め殺そうとした自分がいたんだ…

 それを考えるだけで…自分を…自分を許せない…」


「そんなに自分を責めないでにゃん。」


スフィアは首を振ると、抱きしめる腕をそっと解いて、お願いした。


「ねぇ…ニーナお姉さん、私を殺して…?」


「なっ何を言うにゃん!」


「じゃないとさっきみたいに私はまたニーナお姉さんを殺そうとするかもしれない…だから…」


次の瞬間、ニーナはアンナの頬を引っ張った。


「えっ…?」


「そんなことできるはずないにゃん…?

 私にとってあなたはもうかけがえのない存在で、"この世界で生きる意味"そのものなんだよ…?」


「でっでも、そう思うのは…ニーナお姉さんの大事だった人に私が似てるからなんでしょう…?」


「確かに出会った最初の頃はそうだったかもしれないにゃん…」


「やっぱり…そうでしょう…?」


「だけど、今はサラと同じぐらい

 スフィアが大事だって迷わずに言えるにゃん…」


「本当なの…?」


「嘘言ってるように見えるかにゃん…?」


「見えない…」


「信じてくれるかにゃん…?」


「ニーナお姉さんのことは信じられる…

 だけど…自分のことは信じられないよ…

 私はさっきみたいな邪悪な力をコントロール出来るかわからない…

 ニーナお姉さんだけじゃなく…他の誰かも傷つけるかもしれない…そんなのいやだよ…」


「だいじょうぶにゃん!」


「ニーナお姉さん…?」


「その時は私が全力で止めるにゃん!

 スフィアに誰かを傷つけさせたりなんかさせない!」


「絶対に…?」


「絶対ににゃん!」


「もしそうなったら、私を殺してでも止めてくれる…?」


「・・・・・約束するにゃん、殺してでも止める…

 だから、今まで通り、一緒に暮らそう…?」


「うぐっ…うぐっ…私も一緒に暮らしたい…」



「よかったにゃん、じゃあ、帰ろっか。」


「ニーナお姉さん…」


スフィアはニーナの腕の中で、ひたすら泣き続けた。


「ひぐっ…」 


「やっと泣き止んだみたいだね。」


「私、わかったことがあるよ…」


「んっ?何だにゃん?」


「ニーナお姉さんの事が"大好き"ってこと。」


「にゃ?それっていつも言ってくれてるよね?」


「前より特別なの。」


「特別って?」


「うーん、ナイショかな。」


「ナイショか…じゃあ、いつか教えてくれるかにゃん?」


「いつか…ね。」


「約束にゃんよ?」


私とスフィアは月の光に照らされた深夜の町で

そんな小さな約束を交わしたのにゃん。

でもその約束は二人にとって、この先、とても大きな意味を持つことをこの時の私達はまだ知らないのにゃん。


−その頃、同時刻、王都にある王家直属の〇〇討伐隊の第2基地にて−


「この町で間違いないんだな?」


「ええ、私の魔力探知の力がこの町に反応を示したので、間違いないかと…」


「ふははっ、そうか、そうか。

 良くやったぞ、エルナ少尉。」


「いえいえ、王国を守る者として当然の務めですから。」


「やっと見つけたぞ、あの〇〇め…

 今度こそ、逃がすものか…」


再び大きく運命が動き出そうしていることを

ニーナ達はまだ知るはずもない…


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