砂の音や風の気配が細やかに描かれていて、読み始めてすぐに旅の空気に包まれました。言葉数は決して少なくないのに、会話のテンポがよく、重さよりも流れを感じます。二人のやり取りには軽さと緊張感が同時にあって、肩に乗る距離感そのものが関係性を語っているようでした。読後には、風と唄の余韻だけが静かに残り、少し先の景色を見に行きたくなります。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(817文字)
大唐の時代を舞台に、遣唐使の任を捨てた東方の日本人と、出来損ないの翼が生えた迦陵嚬伽の少女の共連れが、遥か西方の地を目指して旅を続ける物語。物語の随所に織り込まれた豊かな仏教の知識と、仏教国チベットの雄大な光景、そして繁栄を極めたシルクロードの残影が、細密かつ端正な記述によって描き出される。かつての日本人が憧れた唐土や、阿弥陀仏の座す西方浄土への思いを想起させる見事な小説、今後の展開に期待大。ぜひ一度読んでみてほしい。