第36話 迷い②

 占いの人に見てもらって、沢村と話がしたくて、携帯をずっと見ていた。

「でもなぁ、なんて話したら良いんだろう」

 素直に相手に話をしたとしても、彼女がどう思うかなんて分からない。

「はぁ、友達になってみたいなんて、都合が良いよな。まぁ、ちょっとだけ会って話して、もしこれで離れたら……いいか。次に進めばいいのか」


 数日後、前に会ったカフェで沢村と待ち合わせをした。

「久しぶり、元気?」

「うん、まぁ」

 沢村は、笑って近づいて来た。

「ご飯は、ちゃんと食べてる?」

「食べてるよ、あれからちゃんと自炊じすいしてるし」

「良かった、顔色が良いね。元気そう」

 前と同じような会話だった。久しぶりだったけど、ちゃんと話が出来た。少し勇気を出して、話を切り出した。


「あのさ、俺、恐かったんだ」

「え?」

「今までの俺と変わるのが。戸惑とまどいっていうか。でも、その中でも楽しかった時があったんだ」

「どんな時?」

「新しい俺を発見した時、やったことのない料理で、俺ってこんなの作れるんだってのが分かった時とか」

「そっか、良かったね」

 俺と沢村は、コーヒーを飲んだ。

「あれから、俺、色々と考えたんだ。今まで、ちゃんと考えたことが無かったこと。楽しい事ってさ、どっか遊びに行って、お金かけないと楽しめないと思ってた。だから、誰かとデートする時は、お金が要るなとか、どこ行くか、お店とか探さなきゃとか思ってた」

「それは大変だね」

「でも、はじめて、そんなことしなくても楽しかったんだ。考えなくても、自分の思ったことや、やりたかったことをやってたから。なんか、身軽みがるだったんだ」

「はじめてだったんだね。本来の自分で楽しんだってことが」

「うん、だから他愛たあいのない話でも楽しかったんだよな。俺、前の自分よりも今の自分が好き。だって、楽しいんだもん。別に、カッコつけなくたってモテたいと思わなくなったし」

「ふふっ、それは良い事なの?」

「だからさ……前に話したことにもなるんだけど」

「前に? 何だっけ」

 沢村の目が、一段と大きくなった。何を話したっけって顔をしてる。


「ジムの話。俺はモテたくてとかさ。年齢とかの話とか」

「ああ、そうだね。話したね、なんか恥ずかしがってたけど」

 俺が両手で顔をおおってしまった時だ。あんなの初めてだ。

「沢村さんは俺に、貧乏くさいとか、おばさんって言ってたけど。俺は、人を傷つけて、だらしないんです」

 深呼吸をして、続けた。

「付き合っていた人がいるのに、合コンに行って、飽きないようにって言い訳して、水をかけられて、振られました。でも、なんでダメだったのか分からなかった。相手を傷つけていることだって分からなかった。最低な彼氏でした」

 こんなに、自分の恥ずかしいことを人に言うのは初めてだった。

「俺は、身に付けているものでカッコつけようとして、中身をちゃんとしてこなかったんです。だから、もういらないんです。前の自分が持っていたものは」

 また、コーヒーを一口飲んだ。


「そう、もう何もいらないと思っています。沢村さんと会ってから、本当に人と話をすることの楽しさを知ったんです。話だけで、こんなに楽しいことがふくらむんだって。いつも、弁当作ったって報告する楽しみで、それだけで過ごせたんです」

「うん、私も聞いてて嬉しかったよ。料理の作ってるところとか、見せてくれて。楽しそうだなって」

「歳の差とか、俺も怖いです。でも、だからといってこの関係を手放したくないです。せっかく、ありのままの自分でいられる相手だから。ゆっくりと少しずつでいいから、知り合いのままでもいい。これからも話したいです……て、すみません。俺の願望がんぼうです」


 はぁ、途中から何言ってるのか、分かんなくなったけど、何とか言えた。これで、嫌がられても仕方ないか。数分の沈黙ちんもくが流れた。


「ありがとう、私も心開けて話せる相手はいないから。ただ、恐かった。こんなに楽しく話が出来たとしても、続くかどうかなんて分からなかったから。終わるたびに、寂しい気持ちがあって辛かった。知り合いでも嬉しいよ。この関係が続くのなら」


 沢村は、笑った。そっか、別にお互いに終わらせなければ、いいんだ。これから、どうしようかなんて考えてないけど、でも知り合いでもいいから続けたかった。カフェを出ると、俺は沢村を少し待たせた。


「ちょっと、ここで待ってて」

「うん、いいよ。何、忘れ物?」

「うん、ちょっと」


 慌てて、俺は戻ると、沢村に一輪いちりんのピンクのガーベラを差し出した。

「何?」

「あまり残ってなかったけど、そこの花屋さんで買ってきた」

 沢村は、驚いた顔をして受け取った。

「何してんの、嬉しいよ。初めてだよ、人からお花をもらうなんて、ありがとう」

 そして、涙を流していた。

「私ね、実はずっと一人だったから。やっぱ寂しかった、でも、こうして話をしてくれる人がいるって、こんな暖かい気持ちになれるんだね」

「俺だって、何もなくても笑い合えるって、そっちが教えてくれたから。それからさ……」

「うん、何?」

「もう、年齢とかさ、コンプレックスとか、色々あると思うけど、お互い気にするの止めようよ。これからはさ、楽しもうよ。今まで、辛かったり、寂しかったりした分さ」

「うん」


 そうだ、俺らはお互いに弱さを、さらけ出した。なにも無くても、思い合って優しくなれるんだって分かった。




































































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