第26話 とまどい①

 いつ以来いらいだろう、あんなに人と話したのって……。

 気づいたら、ずっと考えていた。他愛たわいもない話、下手へたすりゃ学生の友達レベル。ずっと、ご飯か料理の話しかしてない。色気いろけなんか、どこにもない。何にも考えずに、ただ夢中むちゅうになって話してた。


 そっかぁ、マズいよな。


 俺も、そろそろいいとしか。言われて、気にしないようにしてたけど、心のどこかで引っ掛かってた。パソコンの画面を見つつ、マウスをグルグル回してみる。そして、椅子いす回転かいてんさせて、何回か回ってみた。昔は、そんなこと気にしてなかったのにな。合コンで可愛かわいい子いないかなって楽しみにしてて、それをかてに仕事も頑張ってたけど。気づいたら、1人、2人……まわりに結婚していく奴が出て来て、飲みにさそったらことわられて。その時に、あっそっかコイツ結婚してたな、ごめんごめんってなって。フーッと目を閉じて、これまでを振り返ってみた。


 仕事も頑張がんばってたんだけどな……あんまりパッとしないや。


 最初は、仕事に必要だと思ったらかたぱしからビジネス書を読んで、むずかしくても読み続けていた。資格も勉強して、少しでも成果につながればと思ってたんだけど。頑張れば、いつかはむくわれると思ってた。誰かが見てる、あの頃はそう思って頑張っていた。でも……段々、見えてきたんだよな。見たくない物が……そして分かってきたんだ。チャンスは平等に回ってこなかった。結果を出せば、次にステップアップ出来ると思ってた。でも、実際は上手く立ちえてる奴で、付き合いだったり、うしだてがあって、それも努力の1つと言われて。チャンスが回って、結果出して周りから認められて、モテてさ、そして結婚して家庭持って。そんな上手く出来る奴が幸せになってくんだろうな。


 俺は、地味じみなことばっかで結果も出なくて、こうしてウダウダしてて、それでも可愛かわいい彼女が出来れば良いかって思ってたけど、そこもダメで。あ~、今まで何してたんだろう、俺って……ダメだ。何度、同じことで落ち込んだんだろう。


 ちゃんと、将来を見据みすえた上で探さないとな。今までの恋愛のやり方じゃダメだよな。出会いか、やっぱさそわれたら行った方が良かったのかな。でも、そんな気分じゃなかったし。


 あの子とは、何で話が出来たんだっけ。あの子とは……沢村のことだった。また、ここで疑問ぎもんが出て来る。何でだろう、別にタイプでもないし、今まで付き合ってた女の子とも感じが違うし、別にこれといった会話も特別なものではなかった。


 ただ、今までと違うのは何だろう。こううれしさを感じる感覚かんかくちがっていた。これまで付き合ってたり、デートした子との会話はドキドキして良かった。ちゃんと、最初っから気合が入って、緊張きんちょうして、上手く手ごたえを感じたりして。次の日もうれしくて、お礼の内容を送るのに時間かって、いつもドキドキしてた。それがちゃんと恋愛してるって実感じっかんがあって楽しかった。


 でも、でもだ。沢村とは、はじめからそうじゃなかった。そうだ、最初の頃なんか、最悪だった。イライラしてて、こっちは水かけられて恥ずかしいのに、ほっとけばいいのに声掛けて来やがって。それからわけも分からず、スーパーで買い物して、料理して。そう、無責任に料理したことない俺にすすめやがって。


 もっと、沢村のいやな所を……悪いところを思い当たる限り、言い聞かせてみた。


 そうだ、あの女は上から目線で人の体調たいちょう勝手かって判断はんだんして、料理しろって。なんて、無茶むちゃな事を言ってさ、デカいリュックでダサかったな。メイクもお金かかるって、聞いたことねぇな。ダメダメな奴だな。食いもんのことばっか考えてて、あの格好かっこうで洋服屋さんに入って。あ~ずかしかったな。もう、すぐに解散かいさんしたかったのに付いてくって、しつこかったし。


 うん……。


 なんだろう、心がじんわりした。なぜか……分からなかったけど、泣きそうになった。あんなに良いところなんて1つも無いはずなのに、嬉しかったことがおおいかぶさって来る。違う、他に……アイツより可愛くて、性格が良くて、笑顔が……スタイルが良くて、見た目もちゃんとしててオシャレで、一緒に歩いて自慢じまんしたくなるような子……そうだろう。好きになるって、そういう子だろ。


 あれ? なんかおかしいな、俺。


 気づいたら、一すじ涙がこぼれていた。何も起きてないのに、られても無いのに。なんでだろう。


 はじめて作った味噌汁みそしる……動画、てくれた。


 一緒に計量スプーン買いに行ってくれた。


 そこからは、涙があふれて止まらなかった。なんで泣いているのかも分からないまま、泣き続けた。あの女、アイツ……傷つけようと悪く思えば思うほど、自分の方が傷ついて苦しかった。






















































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