第27話

月島side



俺は生徒と超えてはいえない一線を超えてしまった。



それがどういう事なのかよく分かってはいる。



だけど…どうしても我慢出来なかった。



誰かを好きになった事なんて今まで何度もあった。



キスをした事も…セックスをした事も…



なのに彼の声で名前を呼ばれ、彼に触れられるたびに泣きそうになるほど胸が締め付けられた経験は初めてだった。



まだ幼く、正しい判断がつかない年齢の彼に手を出してしまった俺は最低の教師だと思う。



でも…だから…



今夜だけは彼の腕のなかで自分のありのままの姿でいたかった。



俺を抱いている時の彼の目は男の目をしていて俺よりも逞しい筋肉で俺を抱きしめる。



その腕の中があまりにも心地良すぎて、永遠を望んでしまいそうになる俺はそんな気持ちをかき消し一晩中、彼に夢中で抱かれた。



まるで失神するかのように眠りに落ちた彼のあどけない寝顔を見て、やっぱりまだこの子は子供なんだと自覚する。



体が冷えないようにそっと布団を肩まで掛けてあげると、彼はモゾモゾと動き、俺の胸に甘えてムニャムニャと口を動かす。



その仕草が可愛いくて俺は彼の姿を目に焼き付けるように一睡もせず彼の寝顔を見ていた。





目覚めてすぐ子供のように駄々をこね、シャワーを浴びた浅井くんの髪をドライヤーで乾かしてあげると、寝不足な浅井くんはすぐにウトウトとし始める。



俺のせいで万全の状態じゃなくなってしまった事に申し訳なさを感じながら髪を乾かし終えると、俺たちは朝食を終えて残りのコンテストの続きをした。



コンテスト途中、浅井くんに眠気が襲うのではないかと心配していたが浅井くんはそんな心配をかき消すように絵に没頭し、俺が驚くほどの作品を描き終えた。



凸「月島先生…どうかな?」


凹「凄い…ほんと上手だ…」



あまりの美しい絵に感動しすぎて言葉を探しながらそう浅井くんに伝えると、浅井くんは嬉しそうに笑っていた。



仕上がった絵を審査受付に提出し、審査時間中はそれぞれの自由時間を過ごす事になっている。



俺はその時間を使って部屋に散乱した荷物をまとめて帰る準備をする事にした。



凸「月島先生!あっちに川があるんだって!発表までまだ時間あるし遊びに行こう!」


凹「だめだ。部屋に荷物が散乱しっぱなしじゃん。発表が終わったらすぐ帰るんだから帰り支度しなきゃだろ?」


凸「えぇ~せっかくの川遊びなのに~」



川遊びがしたいなんてまだまだ子供で可愛いなと思っていると、浅井くんも仕方なさそうな顔をしてトボトボと俺の後ろをついてくる。



部屋に戻り、昨夜の行為のせいで荒れた部屋を見て俺が小さなため息を落とすと、まずはベッドから綺麗にしてトランクを開け服を畳む。



すると、浅井くんは荷物をまとめる様子もなく俺の横にピタッとくっつくいて座り、俺の腰に両腕を巻きつける。



凹「ちょっとこら。」


凸「月島先生…好きだよ。」


凹「何言ってんの。早く帰り支度しなさい。」


凸「俺は何があっても絶対に月島先生の味方だから。」


凹「味方してくれるのはありがたいけど先生のカミナリが落ちる前に帰り支度しなさい!!」



俺がわざと怒ったふりをしてそういうと、浅井くんは唇を尖らせてチュウと音を立てるように俺にキスをし、スッと離れて帰り支度をし始めた。



突然、不意を突かれてキスをされた俺の方が調子が狂いそのまま呆然とする。



凸「早く帰り支度しないとまたシますよ!!」



浅井くんは舌を出しながらそう言うのでわざと俺が怒った顔をすると、浅井くんは俺を揶揄うようにケラケラと笑っていた。



帰り支度を終え時計を見るとまだ時間があり、トランクの鍵を閉めている浅井くんに俺が声をかけた。



凹「まだ時間あるし川の方に行ってみる?」



俺がそう問いかけると浅井くんの顔は一瞬にして花が咲いたみたいにパァっと明るくなる。



凸「行く!!」


凹「でも時間の事もあるから川に入っちゃダメだよ?」


凸「分かってるし~そんな子供じゃないんだから。」



なんて浅井くんは言っていたが、川に行くと言って目を輝かせるだけで十分子供だよなんて心の中で呟きながら俺たちは近くの川へと向かった。



沢山ある石の上を歩き川辺に行くと透き通る綺麗な川の中に魚が泳いでいた。



俺はスマホを取り出しその魚の写真を撮っていると横からシャッターの音が聞こえ、浅井くんも写真を撮っているのかと思い横を見ると、浅井くんは川でなく俺にスマホを向け写真を撮っていた。



凸「んふふ…月島先生可愛いw」


凹「大人を揶揄うな。」


凸「俺もあと数日で成人だし。」


凹「そうなの?」


凸「うん。9月1日が誕生日だからね。2学期の始業式が誕生日。先生、ちゃんと成人のお祝いしてね?」



そう無邪気な顔して笑う浅井くんを見れば見るほど、俺のせいで彼を傷つけ汚してしまうのではないかと思い胸が痛む。



俺はそんな浅井くんに何も答えることが出来ずただ微笑み返すことしか出来なかった。


つづく

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