第9話
浅井side
夏休みのコンクールまで俺は授業のあと居残りをし月島先生と美術室で絵の個人レッスンを本格的にする事になった。
基礎を一から丁寧に教えてくれる月島先生。
基礎を全く知らなかった俺にしてみればとてもその勉強は新鮮で俺を夢中にさせた。
しかし、俺を夢中にさせたのは絵だけではなく…
俺のために時間を使いレッスンをしてくれる月島先生で…
俺は日に日に月島先生に想いを募らせた。
先生に褒められたくて…
先生の驚く顔がみたくて…
俺は絵を描くことに没頭していったと言ってもいいだろう。
いつも俺の背後から月島先生は手を伸ばして絵の指導をしてくれる。
その指先はとても綺麗で俺はその指先にいつも見惚れてしまう。
レッスンの間、月島先生は俺の後ろから俺の絵を見ていることが多いので、月島先生の顔が見れないのは少し残念だが、背中から感じる月島先生の気配と声、そして時折俺の肩に触れるその手に俺は喜びを感じた。
俺が絵に集中し出すとたまに窓から外を覗いて風に当たる月島先生を見るのが好きで、月島先生は無意識な行動で俺を惹きつけた。
風に柔らかな髪をなびかせて目を閉じ、風を感じる月島先生…薄っすらと目を開けて俺と目が合うと俺は慌てて目を逸らすのに、月島先生はふふふっと余裕の笑みを浮かべる。
その反応の違いが俺と月島先生の間にある透明な高い壁のようで…
日増しに強くなっていく自分の気持ちを俺は持て余していた。
7月中旬
蝉が騒がしく鳴き、クーラーのないこの教室は野郎達の熱気でむさっ苦しく座ってるだけで汗が滲む。
しかし、目の前の教壇にいる月島先生は涼しげな顔をしていた。
凹「では通知表を渡します!!」
1学期の終業式を終え教室に戻ると、月島先生が一人一人の名前を呼んでひと言と一緒に通知表を渡していく。
月島先生が来てからクラスの雰囲気はガラリと変わった。
不良校でも有名なウチの高校。
その中でも俺たちのクラスは問題児の集まりだったはず。
なのに月島先生が来てから月島先生の持ち前の明るさと人懐こさ、そして不良達さえもお手上げにさせてしまうあの可愛らしさの愛嬌で、クラスメイト達は自然と月島先生を困らせないようにと学生らしく勉強に励むようになっていった。
その変化に他の先生達も気づきもちろん…俺たちと張り合うほど不良校として有名なB高の生徒達も気づきはじめ、帰り道や街中ですれ違うと絡んでくるようになってきていた。
俺はもちろんだが、喧嘩っ早いクラスメイト達も月島先生のために怒りをグッと堪え、B高の生徒の喧嘩を買うことなく無視していた。
その結果、喧嘩も減り毎日のように顔に傷痕をつけて登校していた奴らも今では傷ひとつない顔になっている。
凹「浅井くん!!」
月島先生に呼ばれ通知表を受け取りに行く。
月島先生の前に立つと先生は俺をみてニコッといつものように笑うから、俺は気まずくてどんな顔をすればいいのか分からなくて頭を掻きながら横を向く。
凹「ほら!今から通知表渡すんだから横向くんじゃない!」
月島先生にそう言われて仕方なく先生の方をチラ…チラッと見ると先生は通知表を差し出した。
凹「他の勉強はともかく…美術と体育、あと音楽だけはよく頑張りました!他のお勉強も頑張ってください!今日のレッスンはお休みです!絵のコンテストは8月10日から1泊2日の予定だからそれまでは何回か夏休み中に学校へ来てレッスンしようね?分かった?」
俺は無言で頷き、月島先生の手から通知表を受け取ろうとするが、月島先生は通知表を離さない。
凹「分かったら返事!!」
凸「うぃ~す。」
なんて悪びれてわざとそう返事をすると月島先生は呆れてため息を落とす。
凹「2人っきりだといい子なのに、みんながいるとそうやってワルぶるんだからホント困ったちゃんだよ。」
月島先生の言葉を聞いたクラスメイト達は2人っきりだと浅井は良い子なんだって~可愛い~と言って揶揄うから俺はそれに舌打ちをして席に着く。
やば…恥ずい…////
火照る頬はこの夏の暑さのせいにして俺は下敷きで顔を仰ぎながら窓の外を覗いた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます