第4話 結論、カレーはうまい


「…………大体の事情はわかった、けど」



『利害の一致』といういたって単純明快な動機を聞いた冴は、小さく唸り始める。

それでもなお「でも」とぶつぶつと言った冴は、どこか必死な形相でこちらを見た。



「でも、だったら私の家でも良いわけじゃない!?!?」

「お前のマンションもペット禁止だろ」

「そういえば月夜さんのこと気になってたんだっけ」



那月だけずるい!! と言った冴は、思い出してみれば月夜と喋りたいと言っていた気がする。

その時は誰かもわかっていなかったが、ようやく点と点が繋がった。



「ダメだよ冴、月夜は俺のかせい…………同居人なんだから。あと冴んちはペット禁止」

「くっ…………」

「おい待てなにショック受けてんだ冴、今家政婦って言いかけたぞコイツ」



本当にこんなんで良いのか、とぶつぶつ呟いた和泉は、冴と俺の間を行き来した後、その真ん中にある時計を見てパッと目を見開く。

それに釣られて横を見れば時計の針は9を指しており、いつの間にこんなに立っていたのかと驚いた。



「オレ、家族にちょっと出かけるって言って出てきたんだけど!! 冴、帰るぞ!!」

「えぇ!?」

「どーせお前も似たようなもんだろ! ほら家まで送るから」



文句を言いながらも和泉の言うことを聞いて立った冴たちは、連れだって玄関の方へ向かう。

そして見送りをしようとひらひらと手を振れば、鋭い眼光で睨みつけてきた幼馴染二人と目が合い、思わず立ち止まった。



「え、なに…………」

「わかってるだろうけど、」



そう言った和泉は、半歩後ろにいる月夜を一瞥した後、ぐっと俺の服の袖を引っ張る。



「間違っても、変な気だけは起こすなよ」

「…………ああ、わかってるよ」



当たり前の言葉に首をすくめると、いくらかピリついた空気が緩む。

じゃあ俺らは行くから、と音を立てて閉められた扉の鍵を閉めてから、俺は月夜の方を振り返った。



「じゃあまず、この家の構造————」



ぐぅぅううう。


開いた矢先、一人の大きな腹の音が響いて、俺は思わず口元が緩む。

どこか恥ずかしそうに頬を赤らめたその少女に、俺は小さく笑いかけた。



「その前に、まずはご飯にしようか」






◇◇◇◇◇






「おぉ…………」



あれから少し経ってから、ホカホカと湯気が上がる目の前の料理を見て、俺は思わず感嘆の声を上げる。

冷蔵庫の食材があんまりなかったからこれぐらいしか作れないけど、と言った月夜は、自分の分のカレーを置きながら向かいの席に座った。



「いや、十分すぎる...........手料理にありついたのなんていつぶりだ...........?」

「というか冷蔵庫の中身でも思ったけど、普段どんな料理食べてるの?」



僅かに眉を寄せた月夜は、いただきます、と手を合わせてカレーに手を付ける。

それに続いて手を合わせながら、俺は自分の記憶を掘り起こした。



「別にこれと決まっているのはないけど...........あー、インゼリーとか?」

「それは料理じゃない」

「ダメか」

「サプリメントっていうのそれは」



ダメ出しをされ、はてそれ以外に何か食べたかと考えるが、まあまともな料理なんて和泉たちと寄り道するときに食べるファストフードぐらいである。

しかしそれも否定されると何となくわかっているので、俺は適当に濁してカレーを口に運んだ。



「なにこれうまっ」

「普通のカレーだけど」

「俺にとってはすげえうまいって話ね」



だから賛辞は素直に受け取ってほしい、と笑えば、どこか居心地が悪そうにした月夜が小さく頷く。

冷蔵庫の微かな食材でよくこんなものが作れたものだと感心しながら、俺はまた一口と口に入れた。



「ほろほろのじゃがいもと少し甘みのあるにんじんのマリアージュが...........」

「肉はないけどね」

「月夜が作ってくれたカレーは肉がなくてもおいしいってことじゃん」

「また過剰に褒めて...........」

「相応の評価だろ。俺はお世辞は言えない」

「言わないじゃないんだ」



居心地が悪そうだと思っていた顔は、どうやら照れ隠しだったらしい。

僅かに視線を落としながらも色づいた頬を見て案外感情が出やすいタイプなのかもしれないと思いながら、俺はすぐに半分以上減ったカレーを見下ろしながら口を開いた。




「というか聞きそびれていたんだが、住むことについて、その...........両親とかは」

「問題ない」



何か事情があるのだろうとわかっていたが、彼女の返事は先ほどの緩んだ雰囲気と違い、「これ以上踏み込むな」という拒絶がわかる。

特に問題がないのならいいのだが、と思いながら、俺は月夜の姿を一瞥した。


お世辞にも新品のようとは言えない、少し大きめのTシャツに、ゆるめのスウェット。

まあ、言わずともわかるだろうが俺の服である。


一般高校生男子なら彼シャツだなんだの言うのだろうが、俺の感情はただ一つである。



(うーん、これはさすがに)



「月夜、今週末に服を買いに行こう」



美少女だからどこか着こなしてるとはいえ、流石にこの格好はあまりにも申し訳ない。

目をぱちぱちと瞬いた少女に向かい、俺は気にしていないのかと苦笑いした。





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本日より定期テスト一週間前です。明日は数Bの小テストです。応援してください。

更新は頑張りますがおそらくできない日もあります...........。


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