願掛け
ローデン高原にトキソ国の兵が集まってきていた。レイダ公爵が集めた主力2千に、国境警備隊を含む元反逆軍が千、合わせておよそ3千の兵が陣を敷いた。王都はすぐそこである。ここを突破されたら王都は敵の手に落ちてしまう。
アデン王は指揮をハークレイ法師に一任したが、不安は残っていた。それは味方の兵にも伝わっているようで、全軍が浮足立っているように見えた。それを見抜いていたのか、ハークレイ法師がアデン王に言った。
「王よ。皆をまとめるのはあなたしかおらぬ。この戦いはあなたにかかっているといってもよい」
アデン王はその言葉の真意をはっきりつかみ取れなかった。だがやるべきことはわかっていた。彼は兵士たちの前に立った。
「我らの先祖は敵からこの地を守り抜いた。この豊かな土地で皆が幸せに暮らせるように・・・。その敵を破った勇猛さは朝駆けとして今も受け継がれているのだ。だから我らの先祖に出来て、我らにできぬはずはない。我らも我が国に襲い掛かる敵を打ち倒そう! 我が国とその民を守るために! 行くぞ!」
アデン王は右手の拳を上に突き上げた。すると兵士たちも拳を突き上げて叫んだ。
「この国を守ろう!」「民を守ろう!」
その声は辺りにこだました。その様子を見てハークレイ法師は大きくうなずいていた。
一方、ラジア公国の大軍は地響きを立てて王都を目指していた。その勢いは地面を大いに震わせた。馬上のプラクト大公は戦いに向かう興奮で空に向かって大声を上げていた。
「ブァッハッハッハ! ハークレイめ! 来るなら来い! 受けて立ってやるわ! このプラクト大公が! 前の様にはいかんぞ!」
彼はまるで鬼人にでもとりつかれたかのようにわめいていた。それほど因縁の相手との戦いに心が躍っていたのだ。そしてその兵士たちも異常な興奮に包まれていた。
いよいよ両者はぶつかろうとしていた。あのローデン高原で・・・。
◇
リーサは居ても立っても居られない気持ちだった。アデン王が率いるトキソ国の軍が10倍の兵力で押し寄せるラジア公国軍と正面からぶつかることになる。この戦いに勝つのが難しいことはリーサにもわかった。だが今回ばかりは自慢の脚を生かして・・・というわけにはいかない。彼女にできることは神に祈ることしかないのだ。
リーサはすぐに井戸のそばに行き、桶で水を汲んで体に「ザバーッ」と一気にかけた。水は体に突き刺さるような痛みを感じるほどに冷たい。だがこれで体が清められた。そこから礼拝堂まで寒い中を裸足で走らねばならない。地面の冷たさが足からしみ、そして石ころが足に食い込み血だらけになった。それでもリーサは走り続けた。
礼拝堂にたどり着くと、その中に入って祭壇の前でひざまずいた。そして手を合わせてじっと目を閉じて懸命に神に祈った。
(神様! お願いいたします! どうかこの国と王様をお守りください!)
そしてまたそこを出て寒風が吹く中を井戸に戻っていく。それを何度も何度も繰り返す・・・。
この願掛けは苦しくて辛い。だがこうしていると心が乱れず、気持ちがしゃんとしてくる気がした。
リーサは足を血だらけにして、寒さに震えながらも願掛けのために苦行に打ち込んだ。まだ半分もいかないのにもう体は冷えきって力は抜けてきている。だがリーサはへこたれない。気力を振り絞って立ち上がった。
(神様はきっと願いを聞き届けていただける・・・)
リーサはその一心で懸命に苦行を続けていた。
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