軍勢

 ラジア公国の遠征軍3万は国境を越え、一路、王都を目指していた。地響きを立てて兵士たちが規律正しく行進する。それを率いるのはプラクト大公。彼はかつて多くの国に攻め入り、その国々を切り従えてきたのだ。その威風堂々とした姿は従う兵士たちに勇気を与えていた。


 そのプラクト大公の馬前にカイアミが姿を現してそこにひかえた。


「どうした? カイアミ」

「申し訳ありません。企ては失敗いたしました。ドラスは王宮攻めに失敗、アデン王は無事です。反逆軍も鎮められてしまいました」

「なに! 貴様は今まで何をしていたのだ!」


 プラクト大公が怒鳴った。戦いの場に臨む高揚感でその激しさはいつも以上だった。


「ハークレイ法師が現れたのです。ことごとく妨害されました」

「ハークレイだと! 奴はゼロクロスにいるはず」

「どうも封鎖を破って伝えに行った者があるようです。それで動き出しております。すでにこちらの動きをつかんでおります。大軍で王都に向かっていることを」


 それを聞いてプラクト大公はぐっと考え込んだ。だがすぐに笑いだした。


「はっはっは。大方、貴様はそのことを儂に報告するためにハークレイから解き放されたのだろう。よほどハークレイは儂が来るのを恐れていると見える」


 プラクト大公は見抜いていた。カイアミは何も言えずに黙り込んだ。


「まあ、よい。だが貴様はもう用なしだ。どこにでも行くがいい」

「大公様。私は・・・」

「さっさと儂の目の前から消えぬか! 儂の気が変わらぬうちに!」


 プラクト大公の怒鳴り声に慌ててカイアミは立ち上がって姿を消した。


「ふふふ。ハークレイでは相手に不足はない。見ておれ!」


 プラクト大公は不気味な笑いを浮かべていた。


 ◇


 王宮ではアデン王からの使者が到着して、留守を預かるガンジにその言葉を伝えていた。


「王様は兵をまとめ、ローデン高原でラジア公国の軍を迎え撃たれる。王宮は守りを固めて備えるように・・・」


 そばではリーサも聞いていた。ハークレイ法師様が来られて反逆軍を鎮圧したようだ。しかしラジア公国の大軍が攻め入ってきている・・・トキソ国がまた大いなる危機を迎えていることをリーサは知った。

 ガンジはその使者に聞いた。


「我が方の兵力は? レイダ公爵が集めた兵を加えてどれほどになったのか?」

「三千ほどと聞いています」

「三千か・・・」


 この現状では最大限、集めた数なのかもしれない・・・ガンジはそう思った。


「敵の規模は?」

「プラクト大公が大軍を率いてきている。その数三万・・・」


 そばで聞いていたリーサは絶句した。10対1の兵力差・・・王様はなぜそのような無謀な戦いをしようとされるのかと。それはガンジも同じだった。


「どうしてそのような場所で・・・。王宮に籠城することを誰も進言しなかったのか?」

「ハークレイ法師様の指示だそうです。それ以上のことは・・・」


 いくらハークレイ法師様がついているからと言って、わが方がかなり不利なのは確かだ・・・リーサはそう思うとすっくと立ち上がった。


「どこに行く?」


 ガンジが尋ねた。それは娘のおかしな雰囲気に違和感を覚えたからだった。


「私が走っていって王様を止めて参ります。こんな無謀なことを・・・」

「止めよ! お前が口を出すことではない!」

「しかし、父上!」

「よいか。リーサ。王様もハークレイ法師様も考えがあって戦いに臨まれているのだ。我らにできることはここで備えること。そして神に祈ることだ」


 ガンジは静かに言った。それを聞いてリーサは肩を落として座り込んだ。


(王様。今の私は何もして差し上げられない・・・。どうかご無事で。私は王様のご武運を神に祈っております)


 リーサは心の中でアデン王に話しかけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る