難癖

 役人がリーサを案内した。


「ガンジ殿。さあ、大臣様の前へ!」


 リーサはうなずいて、その奥で待ち受けるドラス大臣のもとに進み出た。そしておもむろに片膝をついて頭を下げた。

 

(ベルガが一番で来るはずだったのに、よりにもよってガンジが来てしまった。この者が王様にいらぬことを言上するかもしれぬ)


 ドラス大臣は苦々しくその様子を見ながら、あからさまに舌打ちしていた。


(こうなったら難癖付けて失格とするか)


 ドラス大臣はそう考えた。それにはまず兜を取らせて名乗りを上げさせてから・・・何とでも理由をつければよい。


「兜を取り、名を告げよ!」


 ドラス大臣の言葉にリーサはすぐに兜を取った。すると長い髪が落ち、白い顔がそこから現れた。


「見回り隊騎士、ガンジの娘、リーサでございます」


 リーサは顔を上げて名乗った。周りにいた者たちはそれを見てあっと驚いた。一番乗りした者がよりによって女・・・こんなことは前代未聞だった。

 だがドラス大臣は心の中で(しめた!)と思った。これなら誰の目にも失格であると・・・。


「リーサとか言ったな! この場を何と心得る! 女が出る幕ではない! 貴様は朝駆けのことを知らんのか!」


 ドラス大臣は大袈裟に驚きながら怒鳴った。しかしリーサはそれにひるまなかった。このような大騒ぎになることはわかっていた。だがここで引き下がるわけにはいかなかった。自分にこの国への思いを託した父のことを思うと・・・。


「朝駆けとは古来より先祖伝来の甲冑を着て王宮に駆け付けるもの。王家の騎士、もしくはその身内の者が参加できると決められております。女が出てはならぬとは決めておられぬはず」


 リーサは毅然とそう言った。だがその内心は不安と恐ろしさでいっぱいだった。ふとすると目を回してしまいそうだった。

 一方、ドラス大臣はその迫力にたじろいだが、こんな小娘に負けまいと大声で叫んだ。


「な、なにを! 屁理屈を言いおって! 神聖な朝駆けに女が出られると思うのか! 朝駆けを汚した罪で牢に入れてやる! ワージ! その女を捕らえよ!」


 するとワージ執行官と兵士が出てきて、リーサを取り囲んだ。


(どうしよう・・・。私は牢に入れられてしまうの・・・)


 彼女は驚いて立ち上がり、不安そうに左右を見渡していた。


「おとなしくせよ!」


 兵士たちがリーサを捕らえようと近づいてきた。彼女には逃げ場はない。その時、


「待ちなさい!」


 と大きな声が響き渡った。


「何者だ!」


 ワージ執行官が辺りを見渡した。すると観衆の中から一人の老人が現れた。見たところみすぼらしい旅の方術師のようだった。そしてその後ろには、大男に支えられた中年の男がいた。その男は紛れもなくガンジだった。


「じじい! ここをどこと思っておるのか! それにガンジ! 貴様も同罪だ。牢に入れてやる!」


 ワージ執行官が指さして大声を上げた。老人はドラス大臣とワージ執行官を鋭い目でキッとにらみながら言った。


「ドラス大臣! ワージ執行官! お前さんたちが一番乗りの者を王様に会わせたくないのであろう。こんなことまでしたのだからな!」


 するとその背後にキリンとセイリュウが現れた。その傍らにミクラスら3人の男を鎖で縛りあげて連れてきている。セイリュウが鎖を解いて、キリンがその男たちを押し出すと。彼らはその場に座り込んで顔をしかめた。


「この者たちが吐いた。ガンジさんやリーサさんを襲ったと。もう逃れられぬぞ! 観念せい!」


 老人の言葉に観衆はどよめいた。ドラス大臣のような重臣がこんな不正を働いたということに・・・。その非難の声は次第に大きくなっていった。いきなり証拠を突き付けられてドラス大臣はひどく動揺した。だが相手はたかが数人、このまま口を封じようと考えた。


「ええい! そのような者は知らぬ! この大臣の儂を愚弄して王宮を騒がす者たちめ! この者たちを捕らえろ! いや、かまわぬ。斬って捨てい!」

「はっ!」


 ドラス大臣の命令にワージ執行官や兵たちは剣を抜いた。

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