第224話
エリザにこの逆刻印の銀貨の話を聞かせたら、興味半分でさわりかねない。
ブラウエル伯爵邸に集まっている四人の意見は、そこだけは一致していた。
この銀貨が変色しているから、奇妙な祟りを引き起こしたのか、そもそもこうした物として誰かに作られたり、ダンジョンのドロップ品として出現したものなのか、はっきりしない。
「危険だから、普通の銀貨と交換すると街の人たちに伝えれば、回収できないのですか?」
「リーフェンシュタール、あんたは育ちがいいんだな。めずらしい効果がある品物だとわかったら、ここに持ち込まずに高値で取引されて人の手に渡っちまう」
元行商人のロイドはそう言って肩をすくめた。
「見つけ次第、回収していくことも考えました。しかし、ロイドが虚ろになった心の犠牲者の人と直接会って、強引に奪い取ってきたようにしない限り、回収は難しいでしょう」
気晴らしのつもりで、この呪物のエラーコインの使い方を知って手を出したら、どんな欲望も望みのままに夢の中で実現できる。
現実逃避するために手放せなくなる。
やがて気力を喪失して、健康を害してもなお、かたくなに握りしめて緩慢に死へと進んでいく。
「あたいたちがこんな効果が起きないようにしたいと考えて、こいつを使ってみて、夢から使えなくなる方法を見つけ出せばいいってこと?」
「そういうことです。街の人たちでは自分の都合の良い夢を見ようとする目的で使ってしまいます。しかし意志が強いあなたたちになら、できると思います」
ジャクリーヌにそう言われたアルテリスはしばらく考えてから、言っていいものか考えてちょっとためらってから言った。
「ジャクリーヌ、その頼み事はあたいたちよりも、エリザのほうがうまくやれそうな気がするよ。でも、シン・リーはエリザに危険があるってわかったら、猛反対すると思うけど」
エリザがこの世界はゲームの世界で偽物の世界、だから、ちゃんと手順と方法を見つけ出して条件がそろえば、うまくいくというような話を、アルテリスに語っていたことがあるのを思い出した。
目の前にある一枚の貨幣の呪物を浄化するなら、シン・リーに頼むか、リヒター伯爵領へ持ち帰り呪物喰いのレチェに見せてみるという方法が考えられる。
銀の貨幣をレチェが喰らうかどうかは、微妙な気もする。
「ロンダール伯爵に相談してみるっていうのはどうかな?」
「私もそれを考えました。しかしロンダール伯爵がふぬけになってしまわれたら、今はとても困ります」
「それは、エリザだってエルフェン帝国の大切な聖女様なんだから同じだよな。で、あたいたちに頼んできたってわけか」
怪馬バイコーンの出現に続く怪異は、逆刻印の赤く錆びた銀貨の出現だった。
リーフェンシュタールかアルテリス、どちらがこの怪異の貨幣の謎解きに挑むか話し合ってみて、リーフェンシュタールは、リヒター伯爵領の後継者なので、アルテリスが挑むしかなさそうな話の流れになったところで、この日の話し合いはひとまず保留で解散となった。
(あたいだってあれもこれもこうだったらいいなって思わないわけじゃないんだからな!)
アルテリスはそう考えて久しぶりに困ってしまった。
普段からあまり物事や自分の行動に悩まない性格なのは間違いないのだが……。
「一ヶ月ほど、エリザ様には街の人たちのお悩みを聞いて、私に聞かせていただきたいですわ。
私は街の人から怖い人と思われているようで、気軽に悩みを打ち明けてはくれません。
それにロイドも男性ですから、女性からの相談を聞いて良い提案ができるとは限りませんからね」
三日後、ジャクリーヌだけブラウエル伯爵邸から帰ってきて、営業許可証をエリザに手渡した。
エリザは広場のフリーマーケットでもかまわないのに、と思いながら、ジャクリーヌが用意した占いのお店のための家に滞在する提案を聞いていた。
「無料で相談のほうが人が来やすい気がするんですけど」
「あら、エリザ様、無料よりも払いやすい金額のお値段で相談者からお金をいただいたほうが、お金を払っている分だけ一生懸命、こちらの話を聞いていただけるというものですわ。
食費や賃貸料もエリザ様は気にすることはありませんよ。
また、みなさんで旅に出る時まで私が貯めておいてさしあけます」
旅費を貯める必要はあるかも、とエリザは思い、ジャクリーヌの提案を受け入れることにした。
シン・リーは、前に会った時よりテンポよく話すジャクリーヌに対して、何か隠し事をしている気がして、目を細めてじーっと見つめていた。
「二人とも、何を隠しておるのじゃ?」
エリザが眠ってからベッドをそっと抜け出して、器用に飛びつき客用の部屋から抜け出したシン・リーは、応接間で酒を飲んでいるアルテリスとジャクリーヌに言ってみた。
ジャクリーヌは顔色ひとつ変えない。だが、アルテリスは明らかに、ぎくっと一瞬だけ、顔をこわばらせていた。
「ジャクリーヌ、アルテリスは器用じゃが嘘をつけぬ。何を隠しておるかわらわに言わぬか?」
ジャクリーヌはアルテリスの顔を見つめてから、ため息をついて逆刻印の銀貨について、シン・リーにも、しぶしぶ打ち明けたのだった。
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