第210話
エリザたちはトレスタの街へ戻り、リヒター伯爵邸の庭にバイコーンと赤毛の牝馬が並んで座っていたので驚いた。
エリザは、レチェとシン・リーを抱えて小走りで、バイコーンや赤毛の牝馬と目を合わせないように邸宅の中に入った。
「エリザ、そんなに怖がらなくても平気だぞ」
アルテリスに言われて窓から庭の二頭をのぞいてみると、バイコーンがエリザの視線に気づいたように顔を向け、赤毛の牝馬も邸宅の窓のほうへ顔を向けた。
(あの
アルテリスは、窓辺に立つと笑顔で二頭をながめている。
エリザは、バイコーンと目を合わせたくないと思った。
「エリザ、クロも連れて行ってもいいかな?」
アルテリスは、すでにこの時、バイコーンにクロと名前をつけていた。
どうしてエリザが、直感的にバイコーンと目を合わせたくないと思ったのか?
エリザ自身もそこは、よくわかっていない。
リヒター伯爵の邸宅の大食堂に集まって、荷馬車襲撃事件の
バイコーンは自分以外の生物に興味を持っている。
初めは赤毛の牝馬、次はリーフェンシュタール、アルテリスと心を読み取っていった。
「あたいは、クロをテスティーノ伯爵領に連れていくよ」
「それで、馬たちは、テスティーノ殿の領地では悪さはしないのかね?」
「あたいと勝負して、クロはもう負けたから、大丈夫」
リヒター伯爵はリーフェンシュタールの隣にいるヘレーネにも同じ質問をした。
「問題ないでしょう。今は、アルテリスが馬たちのリーダーになったようなものですから」
リヒター伯爵に、預言者ヘレーネは答えて微笑した。
「ただ、問題があるとすれば、あの赤毛の駿馬です。あの馬はバイコーンについて来て、今も庭にいます。
もし、アルテリスがバイコーンを連れて行かないと、しばらくしたら野生馬の群れにトレスタの街が占領されるかもしれません」
おそらくリヒター伯爵領となっているこの土地には、人が暮らし始める前から、野生馬がいたと思われる。
その野生馬でも、子馬のうちに人に慣れた馬だけが飼われるようになったということらしい。
「伯爵領にいる全ての馬が、バイコーンについて行くわけではないでしょう。もしもそうだったら、トレスタの街はもう馬だらけになっているはずです」
「エリザ様、バイコーンや赤毛の馬もアルテリス婦人と旅に連れて行ってもらえないだろうか?」
学者モンテサンドの弟子のリーフェンシュタールを、パルタの都を通過するために同行してもらうには、バイコーンや赤毛の駿馬もエリザが連れて行くことは必須条件になったらしかった。
「馬たちの餌をなんとかしてもらえるように、ベルツ伯爵やジャクリーヌ婦人、あとロンダール伯爵には私が一筆、手紙をしたためるとしよう。
リーフェンシュタール、エリザ様をパルタの都まで送るついでに、
伯爵たちに会って、話し合ってきて欲しい」
何をリーフェンシュタールと伯爵たちが話し合うのか?
ランベール王の退位について、ロンダール伯爵を筆頭に署名された連判状が届いている。
ベルツ伯爵の署名とブラウエル伯爵の署名も集めて宮廷議会に提出する。
「父上、その連判状を提出したらバーデルの都から、どこかの伯爵領に兵を向けられたりは?」
「そうなったら、協力して黙らせるしかあるまい。しかし、ベルツ伯爵がこの件に同意していなければ、我々はこの伯爵領から出られなくなるであろう」
リヒター伯爵、ベルツ伯爵、ブラウエル伯爵、ロンダール伯爵、テスティーノ伯爵、ストラウク伯爵の六人の伯爵たちの同盟の流れは、ロンダール伯爵とジャクリーヌ婦人が考案したものである。
リヒター伯爵領の配置は、バーデルの都からすれば、ベルツ伯爵の奥である。
バーデルの都からリヒター伯爵領に兵を向けられたら、ベルツ伯爵領は盾となるか、リヒター伯爵領へ攻め込むか選択しなけれぱならない。
エリザが、アルテリスとジャクリーヌを合わせていなかったら、このターレン王国の改革計画は進行せずに歴史の闇に葬られていただろう。
立案者のロンダール伯爵は、エリザと話して、同盟できる可能性があると判断した。
エリザがその魅力で、人との関わりをつないでくれると信じた。
「エリザ様、異国で暮らす我々に協力していただけますか?」
「戦を避けるために同盟を結ぶのは、エルフェン帝国の歴史でも、過去に神聖教団の主導のもので行われたことです。私にできることなら協力します」
エリザは、大樹海にあるエルフの王国にいる女神ラーナの化身である精霊族ドライアドのリーナに会いに行くという目的がある。
(この同盟がうまくいかないと、私は密入国者として捕らえられ、火炙りにされかねませんからね)
学者モンテサンドの弟子の貴公子リーフェンシュタールに、パルタの都までの旅の同行をエリザと預言者ヘレーネはリヒター伯爵に申し入れ、こうしてエリザの望み通りに許可されたのである。
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ファンタジーだけど、歴史小説っぽい雰囲気は書けてるかな?
お読みくださりありがとうございます。
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