第20話 掃除しながら、昨日の事を

「ふぅ……これぐらいでいいかな」


 使われていなかった部屋の大掃除が一段落して一息つく。


 母さんがたまに掃除してたみたいで、長らく使ってなかった割には綺麗だった。それでも、普段人が立ち入らない部屋をきちんと綺麗にするのは骨が折れる。


 ここは昔海羽が使ってた部屋。小学生の頃は叔父さんも叔母さんも多忙で、海羽は頻繁に家に泊まっていた。その頃に空いていた部屋を海羽にあてがっていたんだ。


 まぁその頃の海羽はほぼ俺の部屋に入り浸っていたけど。


 そして何故か俺の部屋より広い。子供の頃はそこだけは不満だったな。元々は客間として利用する予定だった部屋らしいので仕方のない事だけど。


 これから定期的に家に来るのなら休憩する部屋があった方がいいだろう。と思いとりあえずこの部屋を使えるようにしたけど、俺の腕だとまだまだ汚れが残ってる。掃除も得意らしいので、使うようなら海羽本人に掃除の相談をしてみるか。


 海羽がここで遊ぶ用に持ち込んだ、置きっぱなしになっていた物も多かった。女児向けのおもちゃやお絵かきセット、古いぬいぐるみ、懐かしいものも多くて、つい感慨に耽ってしまったのも掃除が中途半端になった理由だ。片づけ中にやってはいけないやつだな。


「海羽……」


 ふと、彼女の名前を口に出してみる。


 星川と呼ぶよりもしっくりと来る。そりゃ、昔は星川なんて呼び方したことないんだから当然のことか。


 中学にあがった頃には、基本的に同学年の女子は苗字プラスさん付け呼びで定着していた。それに綺麗になった海羽を見て、少し距離を感じてしまったのもあるかもしれない。


 でもさすがに、数日しかたってないのに休み明けでいきなり名前呼びになってたら、学校では目立つだろうか?いや、約束だし彼女が喜ぶなら、周りなんてどうでもいいか。


 昨日の事を思い出す。本当に一方的な話だったと思う。自分的にはもちろん彼女の事を考えてのことだ。でもこれは彼女の好意や優しさに付け込んで、俺が過ごし易いようにしているだけだというのも心のどこかで理解してる。


 婚約破棄した後でも俺の事を気にかけてくれていた……別に金持ちがする政略結婚みたいなものじゃあない。親同士が冗談混じり……かは分からないけど、でもその場のノリで決めたような、効力もへったくれもない婚約なのに。


 そんなものに束縛されず、海羽には幸せになって欲しい。彼女の美貌なら俺よりももっといい男を選び放題だろう。


 そんなこと言っといて、そういうことを考えると胸が苦しくてイライラしちゃうんだから俺も大概女々しいやつだ。


 美貌……あいつ、あんな表情もするんだな……


 昨日見た、艶のある表情を思い出すと体温が一気に上昇する。


 ほら、多分俺は海羽の事をえろい目で見てるだけだ。


「……買物行くか」


 仕事だとしても、これから世話になるんだ。それにこちらの勝手で海羽を振り回している。せめて学校でのサポートや、彼女の喜ぶようなことをしてあげたい。


 彼女が喜んでくれるかわからないけど、とりあえず無駄にならなそうなものを選ぼう。まぁ女性に物を贈ったことなんて、ホワイトデーに市販の安いお菓子ぐらいしかないけど。どうしようか悩みつつ、買物へ向かった。

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