たっぐちーむ通知③
翌朝、目が覚めてすぐにスマートフォンを確認したが、通知メールは来てなかった。
たっぐちーむのサイト内も見に行ったが、チャットはやはり更新されていない。YOUMAさんの最終ログインも昨日の日付だ。
僕は少しガッカリしながら学校へ向かった。忙しいだろうし、仕方ないと言い聞かせながら。
「あれ? 通知が来てる」
学校に到着し、自分の席に座るとスマートフォンに通知が来ていることに気が付いた。
どうやら通学途中に来ていたようだが、歩いていたため着信には気付けなかったようだ。
チャットには
YOU:ラフの完成が遅くなり大変申し訳ございません。昨日中にあげると言っておきながら、約束をお守り出来ず、大変申し訳なく思っております。
なかなか納得のいくものが描けず、こんな時間になってしまいました。
修正して欲しい点などございましたら、遠慮なく言ってください。
と、期日を守れなかった事への謝罪が書かれていた。
そして、その後には2枚のキャラクターのラフ画が貼り付けてあった。
「うはっ!」
僕は思わず声を出してしまった。
そこに貼り付けてあった2枚のラフ画は期待以上のものだったからだ。
勿論YOUMAさんの絵が素晴らしいのは分かっていた。けど、そこに有ったのは清書ですと言っても差支え無いぐらいクオリティの高いラフ画だった。
セクシーさとかっこよさを兼ね備えつつ、それでも可愛らしさのある女剣士の主人公フラン=ベルジュ。
優しさと厳つさ、それでいて人間らしい表情をしているリザードマンの相棒マーリン。
両方のキャラクターが身に着けている装備の皮の質感や、服の皺などこだわりが垣間見える。
その出来栄えにご飯が3杯いけるほどの衝撃を覚えた。
「うわっ、オタク君スマホみてニヤついてるよ~」
「え? もしかして学校でエロサイトでも見てんの? キモッ」
いつもの通り、湯上と小野が聞こえる様に言ってくる。聞こえないフリをしながら、意識と視界の端を彼女たちにフォーカスする。
「っていうか佑香さぁ、またお金貸してくんない? 今月もピンチで」
湯上真鈴が懇願するように言った。
「えぇ~。っつか真鈴あんたさぁ、この前麻由からも借りてなかった?」
「あっ! そうそう、貸してた~。ってかまだ帰ってきてないんですけど」
「ごめんって。来月には絶対返すから~」
「ホントにぃ? まぁ真鈴は絶対返してくれるから良いけどさ。男遊びが過ぎるんじゃない?」
「そうそう、真鈴ってイケオジ好きだもんね」
「いや、確かに年上は好きだけどさぁ~。そんなんじゃないって、マジで」
「うそだ。今度イケメン紹介してよ。1人ぐらいいるでしょ?」
「あっ、佑香ズルい。あたしにも紹介してよ」
「ムリムリ、紹介できる男なんてホントにいないから」
「ウソウソ、この間大人の男性と歩いてたってもっぱらの噂なんだからね」
「えっ? マジ? 真鈴ってもう男に捧げちゃったの?」と小野。
むしろ、お前らが学校でなんて会話してんだよ、と心の中で突っ込む。
「誰よ、そんな噂流してんの。絶対人違いだって~」
「さぁ? 誰だろうね~」
間宮がチラリと小野を見る。
「あたし、昨日徹夜してて眠いから自分の席戻るわ~」
「あっ! 逃げるのズルい」
小野は追及しようとした湯上から、のらりくらりと逃れる様に自席に戻り、机に突っ伏した。
残された間宮は肩をすくめ、話題からフェードアウトするように湯上から離れた。
「はぁ~。変な噂とかマジ困るんですけど」
そんな様子の湯上を見ると、バッチリ目が合ってしまった。真実のほどは知らないが、湯上真鈴はパパ活をしている。なんて噂を耳にしたことが有る。
「見てんじゃねーよ」と言われそうだったので、瞬間的に目を逸らし、カバンを漁って授業の準備をはじめたフリをした。
けど、特に何か言われるでもなく、湯上も机に伏せた様だった。
1日の授業が終わり、帰りのホームルームが終わるとダッシュで家に帰った。
ラフ画を見た感想を一刻も早く返したかったけど、学校で自分が小説を書いていることがバレては面倒なので、全ての授業が終わるまで我慢していた。
制服姿のままベッドに横たわり、もう1度アップされたラフ画をじっくり見る。
やはり何度見ても素晴らしい。
「とりあえず画像保存しておこう」
どこかにアップしたりするつもりはさらさら無いが、記念として取っておこうと思った。言ってしまえばこれは、僕のために書かれた様なものだから。
夏:YOUMAさん
素晴らしいラフ、ありがとうございます。思わず見入ってしまいました。
キャラクターデザインについて問題ありません。
思った通りというか、想像以上の出来に興奮してます。
それと、個人的に画像を保存しても大丈夫でしょうか?
勿論ネット上などには決して上げませんので。
キャラクターデザインについては本当に文句は無かった。むしろ素人が意見してはいけないような気さえした。
着替え終わり、トイレから戻ってくると、返信が来ていた。
YOU:夏海さん
気に入っていただけてありがとうござます。ラフではありますが、個人的に気になっていた所がありましたので安心しました。
画像につきましては、複製や転載、商用利用しない限りは保存頂いて構いません。
SNSのアイコン程度でしたらお使いいただいても大丈夫です。
一応、キャラクターのデザインが固まりましたので、これから表紙のラフを描きたいと思います。
流石に今日中は難しいですが、明日にはお見せできるかと思います。
恐らく、ラフ画の完成が少し遅れたことを気にしているんだろう。
夏:保存の許可ありがとうござます。
アイコンに使いたい所ですが、まだ皆に見せるのはもったいないので、1人で楽しませてもらいます。
表紙のラフにつきましては、そこまで急がなくて大丈夫です。
忙しいでしょうし、気にしないでください。
僕は、表紙のラフの完成を心待ちにしながら、文章をたっぐちーむ用に修正する作業を始めた。
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