あの日交わした約束が実るとき、僕らは再び巡り合う。
玄門 直磨
たっぐちーむ通知①
突然の通知に僕は目を疑った。
”たっぐちーむ申請が来ています”
スマートフォンを持つ手が震える。
「嘘だろ!?」
新たにできた小説投稿サイト【たっぐちーむ】。
文章を書く作家と、表紙や挿絵を書くイラストレーターがサイト上でマッチングして1つの作品を仕上げ投稿する。
そんな面白そうなサイトがつい先日新たに立ち上がり、さらにはオープニングコンテストも開催しているというのも有って、試しにユーザー登録をしてみた。
今までは【小説家ですよ】とか【カクヨム】などをメインに投稿していたけど、あまりPV数も伸びず、評価やレビューもそこまで多くは貰えたことは無い。
たっぐちーむというサイトにも小説を投稿し、一緒に作品を作ってくれる相手を探していたが、まさかイラストレーターの方から申請が来るとは思ってもみなかった。
登録している作家やイラストレーターも玉石混交で、自分は石側だと思っていた。
なぜなら、一応何人かのイラストレーターに申請を出してみたけれど、どれもたっぐちーむ不成立となってしまったからだ。
丁寧に断りの連絡をくれる人もいたが、中には無言で拒否される事も有った。
それについては、自分が高校生という事もあるし、他の投稿サイトで対した実績が無いから仕方ないとは思ったけど、流石に無言の拒否には傷ついた。
そんな、たっぐちーむ成立を諦めかけた時、申請通知が来たのだ。
「えっ? いや、ちょっ――まじで?」
申請して来た相手のプロフィールを見て更に驚いた。
【YOUMA《ユーマ》】
そのイラストレーターは、今ものすごく話題の謎の女子高生メタルシンガー【Edo《エド》】のデビューシングル【Shut up!《シャラップ》】のジャケットをデザインしていたり、人気のソーシャルゲーム【パズル&ダンジョン】略して【パズダン】の一部キャラのデザインを担当するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍を続けていて、更にSNSのフォロワー数も何十万といる有名なイラストレーターだった。動画投稿サイトにもイラスト作成動画を上げており、本人の肉声は無いがライブ配信の同時接続数は毎回数万人にものぼる程の人気ぶりだ。
透明感のあるデザインが特徴で、ファンタジー向きのキャラなどをメインに書いている。
「いや、何かの間違いなんじゃないか? これ」
受け取った申請通知の内容を開いてみた。
YOU:初めまして、YOUMAと申します。
投稿されてますこの作品【フラン・ベルジュ~女剣士も恋をしたい~】も戦闘シーンは迫力がありますし、 コメディシーンはクスッと笑え、ぜひこの作品のイラストを担当したいと思いました。
宜しければ一緒に作品を作りたいと思っています。
「えぇ~、新手のドッキリじゃないよな、これ」
申請メッセージのあまりのべた褒め具合に、ドッキリを疑ってしまう。まぁ僕にドッキリを仕掛けてもなんのメリットも無いし、ましてや相手は有名なイラストレーターだ。なおさらドッキリをする理由が無い。
「と、とりあえず承認しよう」
承認ボタンを押し、無事にたっぐちーむ成立。
画面には僕と相手のアイコンと、『たっぐちーむ結成おめでとうございます!』の文字。
更には、『2人のためだけの楽屋を作成しました! たっぐちーむノベルの制作、張り切って行ってみよう!』と画面には表示されている。
「と、とりあえずチャットで連絡を取ろう」
夏:初めまして、夏海(なつみ)です。
申請ありがとうございます。まさかあのYOUMAさんから申請が来るなんて夢にも思っていませんでした。
僕なんかの拙い文章でYOUMAさんの経歴に泥を塗らないかとても心配ですが、
精一杯頑張りますので、これからよろしくお願いします。
「これで良し。後は連絡が来たら、お互いの都合のいい時間とかを確認しよう」
たっぐちーむのガイドラインでも、連絡が取れる時間や出来ない曜日、小説やイラストの締切日など、情報をチャットなどで共有することを推奨している。
一応たっぐちーむに投稿する予定の小説は、既に【小説家ですよ】に投稿しているので、コンテストの規定文字数60,000文字以上80,000文字以内はクリアしている。
だけど、たっぐちーむ用に中身を修正する必要があった。
今回のオープニングコンテストは受賞した場合、サイト上で1巻として販売することが出来る様になる。
投稿済みの内容のままだと、規定文字数内では中途半端なシーンで終わってしまうので、1巻として丁度よく、かつ続きが気になるような終わり方をさせる必要があると思っている。
しかし今は、たっぐちーむが成立した喜びと興奮で、小説の事なんか考えていられない。
部屋の時計を確認すると、時間は夜の11時をまわっていた。
とりあえず挨拶のチャットは投稿したので、今日は寝る事にした。
翌日の昼休み、スマートフォンを取り出してたっぐちーむのサイトを開く。
だけど、まだチャットの返事は来ていない。
一応メールアドレスと連携しているので、通知が来たらメールが入るけど何となくサイトを見に行ってしまうのだ。朝、学校に登校してから確認するのはもう何回目だろうか。
とりあえず返事が無いのでカバンから読みかけの小説を取り出し、続きを読み進める事にする。
すると、廊下側の席の方から声が聞こえてきた。
「ま~たオタク君、昼休みに本読んでるよ」
「陰キャ過ぎ、ウケる」
と、わざと聞こえる様に言ってくる女子生徒達がいる。
オタク君と言っていた金髪ロングの女子が
その女子生徒達は
そして僕の事をなぜか『オタク君』と呼んでいる。
いつも教室で本を呼んでいたためか、いつの間にかそう呼ばれていた。
本=オタクとは、なんて狭い世界で生きているのだろうか。僕は決して友達がいないわけではない。ただ、基本1人でいるのが好きなだけだ。
正直、僕は彼女たちの事が苦手だった。自分とは住んでいる世界が違う。なのでまともに話したことは無い。
でも、1つだけ問題がある。
それは、僕が間宮佑香の事を好きだという点だ。
自分でもなぜかわからない。弱気で内気な性格だから、自分の持っていない物を持っている人に惹かれたのか、それとも単なる一目惚れか気の迷いか。
間宮佑香は、ギャルとまでは行かないが明るく社交的な性格で、クラスの中心的存在だ。女子や男子の殆どと仲がいい。
本から顔を上げ、チラリとそちらを見ると、「でさ~」と湯上と小野はこちらを見ないフリをして話題を変えた。
だが、間宮佑香はこちらを見ている。
そのまっすぐな視線にドキリとしてしまい、僕はすぐに目を伏せてしまった。
もしかしたら顔が赤くなっているかも知れない。
その後、昼休みが終わるまで僕は小説を読むふりをつづけた。
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