第二十五話 一緒に
エフノールとの話し合いを終え一息ついていた私は、机の上に置かれていた取引の契約書をぼんやりと眺める。
そこには、エフノールと交わした取引の内容がずらりと並んでいた。
全部読み上げるとキリがないので割愛するが、ざっと説明すると以下のような感じだろうか。
ウールギア、イストス、デメテル、へカーティの四名(これ以降魔女四姉妹と呼称する)は、王国の領土内にて魔女を指導者とする反乱が発生した際、反乱の鎮圧に全面的に協力する。
そのほか、魔女四姉妹は以下の条件に従う。
・反乱の発生から一日以内に必ず鎮圧に参加する。
・王国騎士団から命令があれば、正当な理由がない限りは指示に従う。
・全力を尽くし、反乱の鎮圧を最優先に行動する。
・反乱に参加した全て魔女の殺害、または捕縛を以て反乱を鎮圧したとする。
以上の条件を遵守した上で魔女を指導者とする反乱の鎮圧に成功した場合、王国は魔女四姉妹に領土(帝国との国境付近にある森林地帯)を与え、以下の支援を行う。
・与えた領土に建国される魔女四姉妹を指導者とする国家(これ以降魔女の国と呼称する)について、全面的に正当性を支持する。
・王国は魔女の国との国交を結び、貿易等の関係構築に協力する。
・魔女の国の国民に危害を加えた王国民については、あらゆる処罰を許可する。
以上の契約は魔女四姉妹による件の貴族の暗殺が確認された時より有効とする。
また、魔女四姉妹の代表者をマリッド・ウールギア、王国の代表者をエフノール・フォン・ヴァシリオとし、契約の履行を誓う。
以上が、私たちとエフノール交わした取引内容のざっとした説明だ。
多少は私も口を挟んだが、そのほとんどはへカーティとエフノールが決めた。
魔女だけの国を造るなんていうのは私にはなかった発想で、それを現実のものにしようとしているへカーティの辣腕は凄まじいものがある。
これがこのまま実現すれば、確かに魔女差別は解決するだろう。
根本的な解決にはならないだろうが、この問題を根本的に解決しようとする方が無理のある話だったのだ。
それこそ、世界を変化させなければならないほどの無理難題だった。
「私たち魔女と普通の人間では、あまりにも異なる点が多すぎました。寿命と能力の違い、それに由来する価値観と在り方の違い、絶対的な人数の違い。違いすぎるが故に、姉さんがあれだけ歩み寄って分かり合おうとしても、結局普通の人間たちは魔女のことを理解してくれませんでした。……姉さんは、まだ魔女と普通の人間が分かり合えると思っていますか?」
「いいえ、しばらくはもう無理でしょうね。またいつかは良き隣人になれるでしょうけど、友人になることは不可能だとよく分かったわ。もちろん、個人で見れば友人になれる普通の人間はいるでしょうけど」
だが、普通の人間全体と友人になることはできない。
この争いを通じて、私はそのことをよく理解している。
私の理想は魔女と普通の人間で分かり合うことだったが、理想はあくまでも理想にすぎない。
実現できない可能性が大いにあることは分かっていた。
だからこそ、現実に打ちのめされた私はへカーティの計画に賛成しているし、これからも協力するつもりだ。
決して分かり合うことができないのなら、差別することをやめられないのなら、国家という枠組みで区別してやるしかない。
夢はないが、現実的でいい計画だと思っている。
「件の貴族の暗殺は、私とデメテルで進めようと思っています。ウールギア姉さんは来たるべき反乱の日に備えて休んでいてください」
「何か手伝うことはないのかしら」
「しっかり休むことも立派な仕事ですよ、姉さん。落ち着かないかもしれないですけど、少しは待つことに慣れてください」
へカーティはそっけなくそう言うと、さっさとダイニングから自室に帰っていってしまった。
へカーティに言われた通り、私はただ待っていることに慣れていないので、なんだか落ち着かないのだが……まぁ、大人しく待っているべきなのだろう。
久しぶりに売り物のアクセサリーでも作ろうかなと考えながら、私は自室に帰ることにした。
++++++
エフノールと話し合いをしてから二日後。
件の貴族の男は、へカーティとデメテルの手によってあっさりと暗殺された。
へカーティの使役する妖精と、デメテルが生み出した植物から抽出された毒物による合わせ技が死因だ。
聞いたところによると、最後の晩餐を口にしてから数時間後、眠るようにして死んでいたという。
私は直接関わっていないので詳しくは知らないが、二人は上手くやったわけだ。
これによって、取引の前提条件が達成される。
へカーティの言うところによると、王国は私たちとの取引契約を果たすために既に動き始めたようだ。
その一方で、何やらきな臭い噂話を聞くようにもなった。
なんでも、魔女の集団があちこちで目撃されているらしい。
恐らくはブロンティが率いる魔女集団だろう。
物資の調達か、或いはまだ勧誘活動でもしているのだろうか。
ともかく、ブロンティらが反乱を起こす日が近づいてきていることは確かだ。
反乱鎮圧に向けて、私たち四姉妹はそれぞれ準備を進める。
私はただ、妹たちのことを信じて反乱を待ち構えた。
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